東京都杉並区が、伊豆半島の先端にある静岡県南伊豆町にある区有地に、特別養護老人ホーム(特養)を整備することになった。入所待ちの高齢者が増えているが、都内で用地確保が難しいためだ。厚生労働省によると、自治体が地域外に特養を設置するのは異例。試みが成功すれば全国に先駆けたモデルケースになる。隣接区も熱い視線を送る。 (唐沢裕亮、竹島勇)
 「定員は八十人でいいのか、もっと増やすのか」「津波対策を考えないといけない」三月下旬、静岡県庁であった杉並区や南伊豆町の担当者との打ち合わせ。施設の安全対策や生活保護受給者への対応をどうするかなど、今後の課題を整理し、開所を目指す二〇一六年度までのスケジュールを確認した。都市部の特養は満室の施設が多く、入所待機者の増加は深刻だ。杉並区内の特養は現在十一カ所(定員計千百人)。一四年四月までに四施設(同二百三十一人)増えるが、区内の待機者は約二千人で、まだ待機者が残る。
 介護保険制度では、特養は自治体が地元に整備するのが原則。だが待機者の増加に悩む杉並区は、一一年度末に廃園した全寮制教育施設「区立南伊豆健康学園」(南伊豆町)に注目し、約一万六千平方メートルの跡地を利用する案が浮上した。区は県や町とともに、前例のない域外整備の可能性を探ってきた。議論の末に行き着いたのが「保養地型特養」という発想。老後の生き方が多様化する中、都会のお年寄りが自然豊かで温暖な土地で、ゆっくり生活することで元気になってもらおうという考えだ。ただ老人福祉法や介護保険法は、自治体が他の自治体に施設をつくることを想定しておらず、クリアすべき問題もあった。最も問題だったのが保険料の自治体負担分の扱い。施設のある自治体が負担すべきものだが、静岡県南伊豆町に負担してもらうわけにもいかず、県や町に費用負担を発生させないことで話がまとまった。地元への地域振興のため、町のお年寄りも入所できる仕組みを整えたり、職員に町民を採用したり、入所者の食事に地元食材を活用したりすることに。県健康福祉部の担当者は「杉並区は用地確保、南伊豆町は地域振興の利点がある。事業が先進事例になれば、健康長寿日本一を掲げる県にとって何よりのメリット」。課題もある。南海トラフ巨大地震南伊豆町沿岸部の津波高は平均十五メートルと予想。構想に賛意を示す杉並区議会からも津波被害を懸念する声が上がった。それでも区は「建物の高層化などで対応できる」と自信をみせる。杉並区保健福祉部の田中哲参事は「施設周辺には民宿や区有の保養所もあり、週末に介護する家族もリフレッシュできる。必要があれば、杉並と南伊豆を結ぶツアーバスを走らせることも検討していきたい」と話した。

本記事では,杉並区における特別養護老人ホーム整備の取組を紹介.
「ニーズの高いサービスで,常に待機者が多い」*1とされる特養.本記事によると,同区の待機高齢者数は「約二千人」と報道.そこで,同区では「南伊豆町にある区有地」に特養を設置する方針の模様.なるほど,興味深い.
一方で,2012年5月17日に開催された第90回社会保障審議会の介護給付費分科会への配布資料であった,「計2,802施設」を対象に実施した「老人保健健康増進等事業特別養護老人ホームにおける待機者の実態に関する調査研究事業」の結果(有効回答数:「施設票」915 施設(有効回答率32.7%),「本人票」550 人,「家族票」:847人,「職員票」1,127 人)によると,「在宅申込者の施設申込理由」は「今すぐに入所する必要はないが,将来のために施設に申し込む人」が「半数弱程度存在」*2であること,また「申込先特養から「入所できます」という連絡が来た場合」には「「今回はお断りする」または「すぐには決められない」と回答した家族(入らない可能性が高い家族)」が「在宅で31%程度」,「施設在所で34%〜44%程度」とあったとして,同調査結果では「順番が来ても入所しない人が多い」ことが裏付けられた」*3との分析結果も記されている.
「保養地型特養」への募集と入所,そして実際に「住まわれる方々」*4の状況は,設置後,要確認.

*1:結城康博『日本の介護システム』(岩波書店,2011年)149頁

日本の介護システム――政策決定過程と現場ニーズの分析

日本の介護システム――政策決定過程と現場ニーズの分析

*2:厚生労働省HP(政策について審議会・研究会等社会保障審議会介護給付費分科会第90回社会保障審議会介護給付費分科会資料)「資料7平成23 年度 老人保健健康増進等事業特別養護老人ホームにおける待機者の実態に関する調査研究事業 〜待機者のニーズと入所決定のあり方等に関する研究〜<説明資料>」1頁

*3:前掲注1・厚生労働省(資料7平成23 年度 老人保健健康増進等事業特別養護老人ホームにおける待機者の実態に関する調査研究事業 〜待機者のニーズと入所決定のあり方等に関する研究〜<説明資料>)2頁

*4:Takeshi Hieda.(2012).Political Institutions and Elderly Care Policy: Comparative Politics of Long-Term Care in Advanced Democracies:Palgrave Macmillan.p.201.

Political Institutions and Elderly Care Policy: Comparative Politics of Long-Term Care in Advanced Democracies

Political Institutions and Elderly Care Policy: Comparative Politics of Long-Term Care in Advanced Democracies