戦火を免れ、ことし築75年を迎えた川崎市役所本庁舎(川崎市川崎区)。高さ約40メートルの時計塔や広い車寄せは趣があり、映画やドラマの撮影にもよく使われるなど長い間、市民に親しまれている。しかし、老朽化が進み、大地震が発生した場合、倒壊の危険性もあるという。市は市議会の入る第2庁舎とともに、建て替えを含めた耐震対策の検討を進めており、有識者らでつくる検討委員会の議論もスタートした。
■補強工事は困難
市役所本庁舎本館は1938(昭和13)年に建てられ、隣接する第2庁舎も61(昭和36)年築と半世紀以上がたつ。両庁舎とも2008年に緊急耐震補強工事を行ったが、今後、最低限必要な耐震性能を満たすための耐震補強工事を行う場合、本庁舎は地中に埋まっているくいや基礎を掘り起こすなどの必要があり、実施は困難だという。また、市役所は第4庁舎まで分散していることに加え、年間5億8千万円の賃貸料を支払って四つの民間ビルに入居するなど、コスト面や住民サービスの面でも非効率となっている。
■2案で比較検討
こうした背景から市は庁内で庁舎の耐震対策を検討し、ことし5月に報告書をまとめた。報告書は「耐震補強」ではなく「建て替え」を前提に、現地建て替え案(A案)と武蔵小杉駅周辺と武蔵溝ノ口駅周辺を例にした別地建て替え案(B案)を比較した。災害対策や適正な規模の確保といった機能面は、両案とも新たに建設することから達成可能と評価。しかし、交通アクセスや商業業務機能の集積度についてはA案が勝ると分析している。初期投資費用と維持管理費用を合わせたコストは、A案は1105億円、B案は1325億円。B案が新たに用地取得する分、割高だが、現庁舎跡地などを売却できた場合は、B案1082億円、A案1081億円と、ほぼ同じ試算結果を出している。結果、新たな土地の確保、庁舎売却の不確定要素があることから、実現可能性で、A案の方が有利と報告している。
■大学教授ら意見
この報告書をたたき台に5月末から大学教授や公募で選ばれた市民らでつくる「市本庁舎・第2庁舎耐震対策基本構想検討委員会」がスタート。建て替えだけでなく、庁舎のあるべき姿や街づくりの観点などについて意見が交わされた。計5回程度行い、次回は7月22日に開かれる。この議論をもとに、市は来年1月にも耐震対策基本構想をまとめる。市庁舎について、6月の記者会見で阿部孝夫市長は「委員会の議論の結論を待ちたいが、新たに土地を調達してという可能性はあまりない。本庁舎建て替え、これが本命」との見解を示しており、現地建て替えが最有力になりそうだ。
本記事では,川崎市における庁舎の耐震対策の検討状況を紹介.
本記事でも紹介されている,同市が2013年3月にまとめた『本庁舎等耐震対策に係る調査・検討 報告書』では,同市の庁舎の現状を次のように整理されている.まず,同市では「市有財産である本庁舎,第2庁舎,第3庁舎,第4庁舎の4棟」とともに,「明治安田生命川崎ビル,砂子平沼ビル,JA セレサみなみビル,川崎御幸ビルの4棟」の「民間ビルを賃借」し,「合わせて8棟の建物」*1を利用している.そして,これらのうち本庁舎と第2庁舎は「災害対策本部の指揮監督を行う市長や副市長等の幹部職員の執務を行う場所」「行政の執行に欠かすことのできない議事機関である議会が配置」されてはいるものの,「新耐震設計基準」では「不適合」*2となり「地震の震動及び衝撃に対して倒壊」「崩壊する危険性がある」*3と判断されているという.
そこで,同報告書では両庁舎への耐震対策を検討されている.具体的には,「本庁機能を周囲の民間ビル等に移転後,現庁舎を解体し,現庁舎敷地にて新庁舎を建設する」「現地建替」パタン,「現庁舎敷地以外に候補地を定め,別地にて新庁舎を建設する」「別地建替」パタン,「現庁舎を耐震補強し継続使用する」「耐震補強」*4パタンを想定.耐震補強パタンは「補強工事の執行は現実的に難しいとの結果であったこと」「庁舎が現状のままである」ことから「狭あい化や老朽化などの課題の解決が見込め」*5ないと判断し,検討候補から除き2案で検討対象におく.
次いで,立地は「現庁舎敷地」と「武蔵小杉駅周辺」「武蔵溝ノ口駅周辺」*6を比較衡量.結果,「臨海部へのアクセス」「主要都市部(東京,横浜)への電車によるアクセス」「主要都市部(東京,横浜)への車によるアクセス」「緊急輸送路の状況」「羽田空港へのアクセス」「商業・業務機能の集積」の何れの項目でも「現庁舎敷地」が「良い評価」*7であった,という.さらに,コスト面では,「イニシャルコストとランニングコストの合計」「現地建替」パタンでは「1,105 億円」「別地建替」パタンでは「1,325 億円」*8との算定結果も提示されている.
同市役所の「時計塔」は,『自治体における企画と調整―事業部局と政策分野別基本計画』の表紙のように,同市のシンボル的(と,下名が思っているだけかもしれませんが)な建築物の一つ.「現地建替」パタンとなると,現庁舎は「ファザード(外観)保存」*9でもあるのだろうか.今後の審議過程は,要経過観察.
*1:川崎市HP(くらし・手続き:その他:川崎市本庁舎・第2庁舎耐震対策基本構想検討委員会について)「本庁舎等耐震対策に係る調査・検討 報告書」(平成25年3月,川崎市)5頁
*2:前掲注1・川崎市HP(本庁舎等耐震対策に係る調査・検討 報告書)12頁
*3:前掲注1・川崎市HP(本庁舎等耐震対策に係る調査・検討 報告書)13頁
*4:前掲注1・川崎市HP(本庁舎等耐震対策に係る調査・検討 報告書)56頁
*5:前掲注1・川崎市HP(本庁舎等耐震対策に係る調査・検討 報告書)60頁
*6:前掲注1・川崎市HP(本庁舎等耐震対策に係る調査・検討 報告書)80頁
*7:前掲注1・川崎市HP(本庁舎等耐震対策に係る調査・検討 報告書)80頁
*8:前掲注1・川崎市HP(本庁舎等耐震対策に係る調査・検討 報告書)80頁
*9:村松貞次郎『日本近代建築の歴史』(岩波書店,2005年)266頁