• 北村喜宣「分任条例の法理論」『自治研究』第89巻第7号,2013年7月号,17〜38頁.

自治研究 2013年 07月号 [雑誌]

自治研究 2013年 07月号 [雑誌]

本日は,同論攷.
随分以前に個別法令の概説書を読んでいたときに,「地方自治法に基づく条例」という表現に出会った記憶がある.既にその文献自体が何であったかは失念してしまい,残念ながら出典を確認できないが,随分と違和感を覚えたことだけは記憶している.恐らく,個別法令を所管する側や解説される方々にとっては「委任条例」が念頭にあり,委任条例が「法律に条例制定ができる旨の規定がある」(18頁)ことから制定されているとすれば,自らの法令に基づかない条例は地方自治法を根拠に制定されていると考えられているのだろうか,ともその時は思った.ただし,やはり違和感は残った.
2011年に公布された第1次一括法と第2次一括により法令の義務付け・枠付けの緩和・撤廃が進められた.つまり,全国一律的に決定されてきた政省令に代わり,「従うべき基準」「標準とすべき基準」「参酌すべき基準」の三つの基準が新たに設けられたのである.各自治体では,各基準を踏まえた条例制定が進められてもいる*1
では,新たな基準をもとに制定された条例をどのように呼ぶべきか.本稿ではこのような条例を「分任条例」と呼ぶことを提案する.もちろん,従来の「委任条例」という呼び方もある.しかし,従来の「委任条例」では,代替的な基準としての政省令があり制定は任意的でもあった.一方で今回の条例化は「政省令による確定的決定が法制度的に存在しない」(19頁).そのため,例え「委任」という言葉を用いたとしても,従来の「委任条例」に比べても「かなり重くかつ強いニュアンスが感じられる」(18〜19頁)のである.そこで,本稿では地方自治法10条2項の文言を「ヒント」に「造語」(20頁)されたのが「分任条例」という呼称である.
本稿では「自治体が有すべき権能が,国の側に過剰に保持されていた.それを適切な役割分担の観点から自治体に「分けて任せる」のが分権改革なのである」(21頁)という.この「分けて任せる」という考え方からすれば,従来「すべてを国が決定していたところ,法規ではないガイドライン的基準の設定と法規である基準の策定を分けて,後者を自治体に任せた」(22頁)ものが二つの一括法であるという.もちろん「分任条例」が自在に制定できるものではなく,国会と自治体それぞれの立法裁量の限界も述べる.
本稿の眼目は「分任条例」を前面に押し出すことではない.そして,何よりも,いわゆる「法定自治事務」に,法律実施条例を制定し,「政省令を上書きすることは,原則として適法と考えている」(30頁)とすれば,むしろ,「分任条例という枠組みでの議論」(30頁)への疑問が提示されている.つまり,「分任条例」という概念を敢えて提示して考えてみることの狙いは,「国と自治体の適切な役割分担」の観点からの「現行法の構造」を「分析することの必要性」(31頁)にこそあるのだろう.このように感じた時,本稿末の脚注内での次の指摘は,なるほどと思いました.

二つの一括法による対応は,まさに規律密度の高い法令の一部分を消しゴムで真っ白にすることにより「白地領域」を創出し,その範囲で,三つの基準に則した条例制定を可能にした.そうしなければ条例は可能にならないと考えているのだろうか.法令で第一次的決定がされている事項に関して条例余地を創出するためには,国会の明示的意思表示(すなわち,法律改正)によるのでなければ憲法四一条に照らして問題があると考えるのであるように思われる内閣法制局の解釈を前提にすれば,内閣提出法案を通じて枠付け緩和を実現しようとする地方分権改革推進委員会がそうした戦術をとるしかなかったことは,十分理解できる.(中略).しかし,そうした理解が,地方自治の本旨憲法解釈として唯一であるかどうか,適切であるかどうかは,別問題である.自治体は,二つの一括法が実現した措置を,一歩引いたところで受け止める必要がある.」(38頁)