本日は,同書.前著『公務員ってなんだ? ~最年少市長が見た地方行政の真実~ (ワニブックスPLUS新書)』に引き続き,現職市長が見て経験した自治や政治の実態を描く新書.今回は「選挙」
例えば,「実態と合っていない選挙期間」(41頁)や「供託金」(44頁),「戸別訪問の禁止」(48頁)といった「べからず集」(39頁)となっている公職選挙法のもとでの制度としての選挙活動と実態としての政治活動の乖離.また,実態面では,国政政党が再編される一方で「地方組織や支持基盤」(80頁)の堅固さを指摘.そして,地方政治の「慢性的に人材不足」(97頁)にある現状.とはいえ,「一般人から政治家に転身する場合」での多くの人々に自分を知ってもらうことが「並大抵なこと」(100頁)ではない現状と苦労や「お金をかけない選挙活動・政治活動」が「現実的に不可能な話」(110頁)である理由.まさに,「選挙の実態」(7頁)が描かれている.
本書のテーマは,選挙の実態を語ることだけにあるわけではない.政治との「身近さ」を再発見する意義を訴えている点にあるのだろう.例えば「ネット選挙」.ネット選挙自体はお金がかからない選挙のためのツールとして評価されている.ただそれだけではない.SNSでの交流は「握手に近い関係」(28頁)であるという.つまり,「なんとなくの身近さ」(29頁)を感じるためのツールである.そのため「投票率をあげるための特殊なツールではな」(35頁)く,ネットもまた「人が何かを訴える,営業する手法」(22頁)となる選挙手法の一つとする.
しかし,「身近さ」を積み上げることは思いのほか難しい.では,どうするか.結局は「やはり有権者自身の意識を変え」(152頁)ていくことしかない,と本書はいう.著者は「良い政治家を選べる有権者を作る」ことこそが,政治家の最も大事な仕事」(162頁)であると断言する.著者自身が取り組む「未成年者へのビラ配布」(159頁)の意義は説得力がある.一人一人の有権者が選挙に受動的な姿勢から積極的な姿勢になるためには時間がかかり,持続し続けなければならない作業なのだろう.そう考えると次の指摘は,なるほどと思いました.

選挙に行かなかったから責任はない?そうではありません.不適格な政治家を落選させるチャンスを逸していることになるのです.」(124頁)