東京人 2013年 11月号 [雑誌]

東京人 2013年 11月号 [雑誌]

本日は,同誌.
丹下健三が生まれて100年.論集,建築雑誌の特集はもちろん細かな記事を集めても汗牛充棟の観もある.東京との関連で丹下健三を考えるうえでは,本誌の特集は出色.13本の随想,座談,聞き取りを読むと,丹下の「希有な才能が希有な時代と共鳴した」(39頁)姿が見えてくる.
現在の個人的な関心は,自治体と建築家が相互に接近した成果としての庁舎.そのなかでも東京は,旧都庁舎と新都庁舎の二つの庁舎を一人が設計する.しかし,都庁舎への評価は旧都庁舎に比べると厳しい.本誌を読むと,丹下が都庁舎に投影した理念を理解できる.例えば,名の建築家による座談での次の発言.
「面白いと思うのは,東京都庁舎は,第一庁舎,第二庁舎,議会棟の三街区で構成されていますが,いちばん低層の議会棟ブロックは,前後左右を高層ビルに囲まれ,西新宿で最も超高層区域,アーバニティが高い場所です.だからこそ,そこに議会広場,すなわち都政の中心をもってきた.そこが自分の理念だと言っています」(38頁,鈴木博之氏・発言).
ここでいう,「議会広場」という言葉.果たしてどこなのか,前文との結び付きから読めば「都議会議事堂」そのものの空間を想起されているとも読めなくもない.また,むしろ,議会棟と第1本庁舎の間に広がる「都民広場」*1とも読めなくもない.同発言に続く,「それは最初の授業で教えられたアゴラの思想が反映しているはず」(38頁,月尾嘉男氏・発言)と発言からは,並び立つ各庁舎間でポッカリと空いた「空虚な中心」となる「都民広場」は,むしろ議会と連続する空間と理解されていたのか,と驚く.
そのような都庁舎の関心から本誌を読むと特に面白いのは,「現場はまるで戦争でした 東京都庁舎建設をめぐる丹下事務所との厳しい報酬」と題する回顧.施主であり利用者,そして工事の「実施部隊」(68頁)と設計者との間での庁舎のデザインという理念が,実際の庁舎という具象化するまでの苦労がよく分かる.特に,次の指摘からは,都庁舎のもつ意味を現すようであり,なるほどと思いました.

根底には,私たちと丹下さんで,というよりは建築家一般ということかもしれませんが,都庁舎がどうあるべきかという思想に違いがあるわけです.われわれは機能重視.都庁舎はそこで仕事をする者,訪れる者の利便性を追求すべきだという立場であり,加えて言えば,メインテナンスを含めた経費をできるだけ抑制したい.それに対し,丹下事務所にとって大切なのは,デザインであり,シンボルとしての存在感です」(68〜69頁)