本日は,同書.今週都庁でのお仕事を終えた後,都庁内の三省堂で購入.読了後,学生さんに進めようと販売場所を確認するために,公益財団法人特別区協議会のサイトを見てると,同協議会内で本書の全文が公開されていました*1.便利です.
以前,特別区協議会が公刊されていた,特別区議会議員講演会での講演録*2を整理されたものなのかなあ,と思い手にとってみると,全く異なる内容.「戦後数次にわたる都区制度改革」(127頁)のなかでの,1972年から2000年まで制度改正を当事者として回想された内容であり,全くの新刊本でした.さきの講演録内では「私は特別区について実は単行本を出してないんです.雑文はいっぱい書きました.改革のたびに解説を書いてきましたけれども,単行本は出してないんです」「死ぬ前に特別区について書いて死にたい」*3とは仰られていましたが,「戦後数次にわたる都区制度改革」(127頁)のなかの一部に焦点をあてた「特別区について」の「単行本」としての性格も持っていそう内容でした(大森フアンとしては,さらに特別区について買いて頂きたい気持ちが募りました).
構成は大きく分けると制度改革の時系列に沿いつつ,3つの部分から整理されているようです.まずは,個々の特別区レベルでの制度改正(構想)が扱われています.一つは,中野区特別区制度調査会,もう一つは特別区政調査会の活動です.前者は区長準公選制,後者は都配属職員制度の廃止や特別区人事委員会の発足,そして「「特例」市構想」の検討過程を回顧することで,なぜこれらの制度(構想)が紡ぎ出されたのかが分かります.これに続き,都区間での制度改正として,東京都が設置した都制度調査会で提案された新都構想,そして,同構想を受けての意見調整となった都区協議会(都区制度検討委員会)での「61合意」と都区間での検討過程を追跡し,成果を論評されています.そして,最後は,国での制度改正です.ここでは,第22次地方制度調査会の答申,1999年の地方自治法改正によって特別区を基礎的自治体として地方自治法に位置づけられるまでを描かれています.
本書をよむと,都区制度改革の難しさ一つには,アイディア面での「一体性」論があることがよく分かります.一体性というアイディアをもとに制度が絡み合うことで,都区それぞれにとっては,まとまりと自立との狭間でどちらの方向性を進めるうえでも抑制要因になっているようでもあります.また,制度改革を進めようとしても過去の制度の粘着性が継続するため,制度改革は一日にしては決して実現しない,漸進的とならざるを得ないことも,本書からは深く理解ができます.個人的には,ここしばらくの間,都配属職員制度を中心に都区間の人事制度を観察してきたこともあり,制度改革の難しさとそのなかでの一定の成果,一方で,制度改革後に持続される制度(運用)と,特別区制度とともに,制度改革の原理を理解するうえでたいへん参考になりました.
都区制度は難しい.そして,都区制度改革はより難しい,と本書を読み改めて思うなかで出会った「シティーホール」とも自称した都庁舎を論評された次の指摘は,なるほどと思いました.

新庁舎の呼称をどうするかは一見してもどうでもよいように思われるかもしれない.しかし,そこに現行都区制度の改革の方向を定めるための考え方のヒントがあると思われる」(109頁)