本日は,同書.昨日参加した研究会への往復時に読了.独自課税という視角から地方税を考えるには最適な一冊.
31県で採用されている森林環境税.本書は二つの湧泉から説き起こす.
一つは,独自課税である.石油価格調整税,法人二税への超過課税,核燃料税,そして,地方環境税と,時代毎での溢れ出はじめた「都道府県の独自課税のトレンド」(63頁)を見る.そして,現代では「「環境」分野の財源確保策」(64頁)として独自課税が生成する.
もう一つは,水源保全そのもの財政システムである.水源林の買い取り方式から始まる水源保全策は,水道料金への上乗せと「上流自治体への助成事業」(68頁)が行なわれ,そして,現在では独自課税となる.例えば,2003年に森林環境税を最初に導入した高知県が参照した方式は,神奈川県が「水道料金への上乗せ方式によいり捻出した財源で私有林を公的に管理・支援するシステム」である「水源の森林造事業であった」(73頁).
つまり,森林環境税とは,自治体の独自課税という湧泉から流れ出たトレンドが本流となり,水源保全のための財政システムという湧泉からも流れ出たトレンドという支流が合流した税と整理できる.
本書の魅力は,森林環境税内での分流としての神奈川県の水源環境税への分析にある.神奈川県の水源環境税の特徴の一つは,課税標準を県民とした超過課税とする「個人県民税均等割・所得割併用超過税方式」(124頁)を採用した点である.しかし,ここで問題が起きる.それは,いわばアイディアから制度としての具体化の点からの問題である.
地方環境税は,「応益的共同負担論」(131頁)というアイディアに基づく税目として構想された.しかし,上記の方式では共同負担の範囲に含まれないものがある.それは法人であった.本書を読むと同税の検討過程ではもちろん当初は法人を含めた方式が検討されたことが分かる.具体的には「水の使用量を比例負担」とするように「これを課税標準とする法定外目的税」(133頁)とする案である.しかし,現状では欠損法人が「7割」である.たとえ,同方式を採用した場合「黒字法人への租税負担の著しい偏在」(134頁)となる.その結果,これを考慮し法人を対象から外されることになる.
また,制度改正が税の設計を変更する.例えば,上記の「個人県民税均等割・所得割併用超過税方式」も,当初は所得割で設けていた区分も,2006年度の地方税法の改正では「一の率でなければならない」との規定により「区分を廃止」(125頁)となる.
なるほど,アイディアは,まさに「法的にも実態的にも実現可能な」(160頁)なかでしか具体的な制度には結びつかないのだろう.神奈川県の水源環境税課税標準からは,上記の理由から除かれた法人.とはいえ,「応益的共同負担論」のアイディアに倣えば,次の指摘には,なるほどと思いました.

現在,赤字法人を含むすべての法人が負担する租税は,法人住民税の均等割のみである.この現実を踏まえると,神奈川県においても応益的共同負担論に則って法人も水源環境税の納税義務者の対象とする場合には,他県の森林環境税の場合における均等負担の考え方を参考に,「法人全般に対する水源からの受益は多様であることから,各法人が均等に負担することが適切」と考え,法人県民税の均等割に対する超過課税方式を採用するしか方法はないと思われる」(134〜135頁)