福祉のまちづくりの検証―その現状と明日への提案

福祉のまちづくりの検証―その現状と明日への提案

 本日は,同書.
 1970年代初期の当事者運動をその起源とする「福祉のまちづくり」.障がい者,高齢者,子どもは主たる対象ではあるものの,広く「すべての人」(208頁)が利用しやすいまちづくりを目指す理念が「福祉のまちづくり」なのだろう.町田市の「建築物等に関する福祉環境整備要項」(1974年)や神戸市の「神戸市民の福祉を守る条例」(1977年)の制定や神奈川県の「建築基準施行条例」に福祉規程を整備したり(1990年)と,自治体先行で進められてきた.国は,少し遅れてハートビル法(1994年)や交通バリアフリー法(2000年)を制定し,両法を統合した「バリアフリー法」を2006年に制定した.このように自治体から国へとルールが揃い,また,ハードも整備されつつある.
「福祉のまちづくり」の理念の一つが,つなぎ目のないまちづくりを目指すことにあるように,多分野の専門家が専門分野という敷居を越えて,居場所や移動,公共施設,情報環境,主体,法制度と多方面からこの40年余の「福祉のまちづくり」を本書で検証する.個人的な関心は,「3章 移動・公共施設・情報環境の検証」内で検証されている「公共施設」である.公共施設内での多目的トイレ,エレベータの設置等は,公共施設であるためにその利用者は開かれている.そのため「多目的トイレや,駅や商業施設をはじめとした公共施設のエレベーター利用の増大による待ち時間の発生は,同様の施設を利用とする高齢者や障害者(知的障害者等を含む)にとって,その利用がままならなくなるといった自体が各地で起こってきた」(118頁)という.
そもそも,公共施設には整備がなくては利用ができず,公共施設という開かれた空間であるために,整備をしても利用が出来ないディレンマがあるのだろう.次の指摘には,なるほどと思いました.

特定の人のためではないデザインが,新たな葛藤をつくり出す」(120頁)