自宅にごみをためこみ、近隣に迷惑をかける「ごみ屋敷」解消のため、東京都足立区が条例を施行して来月一日で一年になる。条例にはごみ撤去の費用支援などが盛り込まれているが、先月末までに税金を投入して片付けられたのは五件にとどまり、八十五件が解決に至っていない。住民と話せなかったり、話しても問題と認識してもらえなかったりするなど、長期化する事例が目立っている。 (奥野斐)
 隣家まで生い茂った樹木。地面には落ち葉や枝が堆積し、鼻を突く臭いが充満する。区が今年三月に七十七万円を使って支援したケースは、高齢の女性と家族が住む所帯だった。近隣から苦情が寄せられ、区が調査すると、家族は生活に困窮しているにもかかわらず、生活保護を受けていなかった。区の説明で家族はごみを片付ける意思を示したが、費用負担ができず、条例に基づく第三者審議会で区が樹木の伐採やごみの除去を行うと決定。家屋は老朽危険家屋に認定され、さら地にした。現在、家族はアパートに移り住み、うち一人は就職したという。「住民が問題と認識し、納得してもらえたケース。実際は周囲や家族とも疎遠で、本人に会うことすらできない場合も少なくない」と、生活環境調整担当課の島田裕司課長は指摘する。
 条例は、ごみの強制撤去だけでなく、支援を打ち出しているのが特徴だ。撤去費用を支払えない場合に区が百万円を上限に負担したり、精神疾患認知症を患っている人に医療機関を紹介したりする。区が戸籍などを調べ、家族や所有者と連絡を取って、生活再建の支援につなげる。区は昨年四月、ごみや樹木に関する苦情を扱う専門窓口を開設した。今年十一月末までに受け付けた苦情二百十四件のうち、約六割の百二十九件が解決。大半が口頭指導で済んだが、先の事例のほか、四件はNPOにごみの片付けや樹木の剪定(せんてい)を依頼し、計十四万三千円を区が負担した。島田課長は「ごみ問題の解決には保健福祉の専門職との連携が重要。住民の孤立が問題に発展するので、区全体で高齢、単身世帯の見守りを強化したい」と話している。

本記事では,足立区における「老朽家屋等の適正管理に関する条例」の執行状況を紹介.
「実効性の建築基準法に代わって「何かあってからでは遅すぎる」の精神のもと」*1と,「不作為過誤回避」*2の目的から制定された同条例.同条例に基づき設置された「老朽家屋等審議会」で認められた特に危険な老朽家屋等」には「老朽家屋等解体工事助成」により「木造」は「5/10かつ50万円以下」,「非木造」には「5/10かつ100万円以下」が助成される.ただし「平成25年1月1日から平成28年3月31日」の期間は,木造は「9/10かつ100万円以下」*3と助成率・額が割り増しがあり,「自発的に問題を解決する手法」*4も整備されている.
とはいえ,本記事では,2013年11月末までに「税金を投入して片付けられたのは五件」と「八十五件が解決に至っていない」と報道.所有者側には「解体工事は行政がやる」として「放っておいたほうが得」といった「モラルハザード」(前掲注1・吉原治幸2012年:65頁))への懸念よりも,そもそも「住民と話せなかったり,話しても問題と認識してもらえなかったりする」現状がある模様.なるほど,悩ましい.

*1:吉原治幸「「老朽家屋等の適正管理に関する条例」の仕組みと実務」北村喜宣監修『空き家等の適正管理条例』(地域科学研究会,2012年)56頁

空き家等の適正管理条例 (地域科学まちづくり資料シリーズ―地方分権)

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*2:手塚洋輔『戦後行政の構造とディレンマ』(藤原書店,2010年)24頁

戦後行政の構造とディレンマ―予防接種行政の変遷

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*3:足立区HP(まちづくり・住宅建築物の耐震化)「老朽家屋等の適正管理について

*4:松井望「第10章 政策体系と政策過程」柴田直子・松井望編著『地方自治論入門』(ミネルヴァ書房,2012年)205頁

地方自治論入門

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