自治体の財政診断と財政計画

自治体の財政診断と財政計画

 自治体の財務情報ほど開示されている行政情報はない.一方で,利用されていない情報もないのではないか.常にそう思う.おそらくその原因は,財務情報の分かりにくさであろう.個別の収支はまだしも,財政指標が持つ意味や相互の関連性は,常に財務情報のそばにいない限りは敷居が高い分野である.
 本書では,「決算カード」や「財政比較分析表」,「財政状況一覧表」,「財政比較分析表」,「健全化判断比率・資金不足比率カード」の「財政状況資料」や,「貸借対照表」や「行政コスト計算表」,「純資産変動計算書」,「資金収支決算書」という「財務書類4表」内での個別数値の意味とそれぞれを分析するための視点,更には数値相互での関係性を解説することで,「財政状況を知らせるシグナル」(171頁)としての財政指標の更なる実践性を提案する.
 提案内容は2点.まずは,「財務書類から得られる指標などをもくわえて,今日の自治体の財政状況を知らせ判断する視点を示す」「財政診断」の実施である.そして,もう一つは,堅実な診断をもとに「単なる見通しではなく,目標値を持ち実施計画や行財政改革計画といったアクションと連動」する計画(本書では「戦略的財政計画」と呼ぶ)を作成を提案する.本書では,具体的な計画策定方法まで記載する,極めて実践的な利用方法がよく分かる.
 本書をよむと,財務情報への疑問もわく.これほど分かりやすく解説されている財務情報はなぜ理解されていないのか.また,理解されいたとしても利用しないのは,何故なのか.または,仮に理解したうえで利用されていた場合でも,利用の結果が開示されていないのは何故なのか.本書を読み,なるほどと思った指摘は,財務情報もまた意思決定情報の一つであるという,次の指摘.

各種分析から政策マネジメントにどのように反映していくかということは,施策ごとの財務分析,施策指標分析,住民意識調査によって意思決定に必要なデータを収集し施策の現状分析を実施した上で,判断を行なうということである」(120頁)