大規模な災害が起きた際、駅にあふれる帰宅困難者らに迅速に対応するため、武蔵野市は、路線バスの車体を現地対策本部として使う協定を地元のバス会社と結んだ。天候に左右されず、現場の状況に応じて移動できる「動く対策本部」で、全国的にも例がない試みとして注目されそうだ。
 市と協定を結んだのは、市内の吉祥寺駅前などで路線バスを運行する「関東バス」(中野区)。
 JRや京王線が乗り入れる吉祥寺駅は、2011年の東日本大震災時に約2000人の帰宅困難者であふれかえった。市の本庁舎は駅から約2キロ離れており、同駅に無線や携帯を持った職員が駆けつけたものの、安定した指揮場所がなく、帰宅困難者の避難誘導などが難航したという。
 先月に市と同社が結んだ協定では、災害時に同社が駅に乗り入れている路線バスを現地対策本部用に貸し出すことを規定。バスなら天候に関係なく本部が設営でき、停電時でも照明が使えるほか、駅周辺の混雑状況に合わせて車体を移動できるメリットがある。
 全国のバス会社約2350社が加盟する「日本バス協会」(東京)は、バスを災害時の対策本部にする事例について「聞いたことがない」としている。
 今年3月に実施した訓練では、車内に簡易テーブルを持ち込み、地図や無線機を設置。窓をホワイトボード代わりに使って関連資料を掲示し、対策本部として機能することを確認した。
 市防災課の担当者は、「バスで安定した本部スペースが確保できれば、帰宅困難者をホテルや映画館などの一時滞在施設に迅速に誘導できる」と話している。

首都直下 帰宅困難者推計517万人
 首都直下地震が発生した際、都内には、東日本大震災の約1・5倍にあたる517万人の帰宅困難者が発生すると推計されている。
 帰宅困難者が沿道にあふれると将棋倒しになる危険性があるほか、救助や緊急物資の輸送にも支障が出るため、対策は急務だ。
 東日本大震災で多数の帰宅困難者が発生し、大混雑に陥った新宿駅では、新宿区や地元企業などでつくる協議会が、同駅西口にある工学院大学新宿キャンパス内の建物を借りる協定を締結した。帰宅困難者向けに、一時滞在施設の開設状況などの情報提供を行う。
 足立区でも、JRや私鉄各社が乗り入れる北千住駅で多数の帰宅困難者が滞留したことを教訓に、2013年〜16年、東京電機大など区内の7事業者と協定を締結。約1800人分の避難場所や食料などを提供してもらう体制を築いた。
 また、官民でつくる「北千住駅前滞留者対策推進協議会」を毎年開き、駅構内に通勤者を避難させる計画などを確認している。区防災計画担当課は「官民の協力を進め、災害に備える必要がある」としている。

民間と連携重要 東北大学災害科学国際研究所の丸谷浩明教授(防災社会システム)の話
 「災害時に自治体がスムーズに帰宅困難問題の指揮を執るには、状況をリアルタイムに把握し、避難誘導など民間と連携することが重要。地域の事情に合わせて柔軟な発想で庁舎外の現場に拠点を持つのは良いアイデアだ」

本記事では、武蔵野市における協定締結の取組を紹介。
同市では同社と「災害等発生時における路線バス利用に関する協定書」を2017年「7月3日」に「締結」*1。同協定では、本記事でも紹介されている通り、2017年3月11日に実施した「吉祥寺駅周辺帰宅困難者対策訓練」において、「バスを現地対策本部として活用した場合の有効性を検証」*2し、同検証結果を踏まえ、「災害時に帰宅が困難となった方や緊急に避難が必要となった方への対策のため」「現地対策本部など」「バスを利用すること」*3を想定されている。「民間のより主体的な参画」*4による同協定。同協定の具体的な内容は、公表後、要確認。