東日本大震災で被災した岩手県の沿岸市町村が、行政組織内で災害対応ノウハウを共有したり、財政規律を維持したりするのに苦慮している。急激な世代交代で、震災時の自治体危機や震災前の行財政改革を知らない職員が増えているためだ。(盛岡総局・浦響子、釜石支局・東野滋、大船渡支局・坂井直人)
 沿岸12市町村で、震災発生の翌年度以降(2012〜18年度)に採用された正職員の割合は表1の通り。山田、大槌の両町では既に、4割が震災対応経験のない世代に入れ替わった。
 正職員180人の山田町では、11〜17年度に82人が退職した。うち44人が定年を待たずに職場を去った。震災対応に疲弊し、早期退職を選択したケースも少なくないとみられる。
 正職員の平均年齢は38.8歳(17年度)と県内市町村で最も若く、経験の浅い若年の管理職登用が続いている。
 震災で職員39人が犠牲になった大槌町では、震災前のような職員研修が実施できていないのが実情だ。本来なら1カ月に及ぶ新採用研修で行政の基礎を学ぶが、震災後は復興事業が立て込み、研修は後回しになっている。
 震災時の経験を若手に伝える機会も、これまでは町長や幹部による講話などに限られていた。震災を検証した報告書に基づき、町総務課は「本年度中に研修カリキュラムを策定したい」としている。
 各市町村は震災後、任期付きや自治体派遣の職員を多数採用しており、実質的な震災未経験者はさらに増える。
 陸前高田市の場合、任期付き職員(46人)や応援職員(91人)を加えると、震災後に採用した職員の割合は47.2%に達する。
 早晩、職員数は適正規模に戻るが「ハード整備後も維持管理は必要。そのための人繰りが今後課題になる」(市街地整備課)という。

◎桁違いの予算 特例に慣れも
 震災後の沿岸市町村は毎年度、桁違いの復興予算を差配してきた(表2)。震災前の地方行財政改革を知らない職員が増え続ける中、財政規律の緩みが懸念されている。
 陸前高田市は、震災直前の2010年度に120億円足らずだった一般会計が3年後、10倍以上の1255億円に膨張した。本年度の一般会計当初予算も819億円と高い水準で推移している。
 通常事業に前年度比10%削減の要求基準(シーリング)を課してきた歳出抑制策から一転、震災復興を眼目に地元負担実質ゼロの事業補助や自由度の高い復興交付金を存分に活用できるようになった。
 「震災関連」の枠組みで多様な事業展開が可能になった一方、市職員は「役所も住民も特例的な財政支援に慣れてしまった」と打ち明ける。
 沿岸市町村に派遣されている応援職員は意識の違いをこう証言する。「元の職場は冷暖房するのをためらうほど経費節減を徹底していた。今の職場は使い放題。誰も気に留めない。震災後に入った職員は、これが当然の感覚になっている」
 陸前高田市の幹部は「今の状態がいつまでも続くわけではない。感覚を切り替えないといけない」と、肥大した財政と職員意識の今後に危機感を募らせた。

本記事では、岩手県に位置する沿岸12市町村の職員「定数」*1と構成を紹介。同紙による重要な整理。
本紙がまとめた「震災後に採用された職員数」とその「割合」の一覧からは、「震災後に採用された職員」が最も高い割合の自治体は、「山田町」で「41.7」%(定数の「180名」中「75」名)、次いで「大槌町」の「39.7」%(「126名」中「50」名)、その後は、「田野畑町」と「普代町」が「36.1」%(両村ともに「61名」中「22」名)、「岩泉町」が「29.3」%(「167名」中「49」名)、「田野畑村」が「29.2」%(「48名」中「14」名)、「陸前高田市」が「28.0」%(「250名」中「70」名)、「釜石市」が「26.0」%(「407名」中「106」名)と職員構成の4分の1以上が「震災後に採用された職員」であることが分かる(他の市町は「久慈市」が「22.7」%(「357名」中「81」名)、「大船渡市」が「22.4」%(「392名」中「88」名)、「宮古市」が「20.8」%(「577名」中「120」名)、「洋野町」が「20.0」%(「280名」中「56」名))。
同職員が各自治体に「住む」*2、住民として状況は、要確認。

*1:岩手県HP(県政情報政策市町村市町村職員給与)「岩手県内市町村の給与・定員管理等の状況

*2:西尾隆『公務員制』(東京大学出版会、2018年)30頁

行政学叢書11 公務員制

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