県が一定期間経過した公共工事の継続について再検証する公共事業再評価システムで、中止や休止と再評価した事業がシステム導入当初は多数あったが、二〇〇三年度以降は一つもないことが分かった。県は「財政悪化で公共事業数が減ったから」などと説明している。
 再評価システムは一九九八年度から採用。再評価の対象は県が事業主体であって▽事業採択後五年たっても未着工の事業▽事業採択後十年が経過しても完成しない事業−など。学識者や企業経営者ら九人でつくる再評価委員会が、対象事業をめぐる社会経済情勢や費用対効果の変化などの観点から、不適切な点や改善すべき点を評価し、県は評価を基に対応を決めている。昨年度までに再評価対象となった全二百五十一事業のうち、事業を中止や休止したのは〇二年度までに九事業あったが、その後はゼロ。計画を再検討や見直した事業も〇五年度までに十八事業あったが、それ以降はない。近年、再評価で見直される事業が減ったことに、県の桐原泰弘政策監は「評価レベルを落とすとか、手を抜いているのではない。財政悪化で事業採択される事業が減り、公共事業そのものが厳選されているため」などと話している。 (伊東浩一)

痛みを伴う行財政改革の断行に対し、県民の賛否がほぼ真っ二つに割れていることが県の本年度県民世論調査の結果から分かった。結果を受け、県行政改革地方分権推進室は「行政サービス低下に一層配慮しながら改革を進めるとともに、少ない資源でサービスの質を上げることにも努めなければ」としている。調査は八−九月に、無作為抽出した県内の男女計千五百人に面談方式で実施。71・7%に当たる千七十五人から回答があった。調査の中で「行財政改革の必要性」の質問に対する回答は、「行政サービス低下がわずかなら行財政改革を行うべきだ」が21・2%、「行財政改革のため行政サービスが相応に低下するのはやむなし」が17・9%で、合計39・1%が「改革のためのサービス低下はやむなし」と答えた。これに対し、「行財政改革は行政サービスが低下しない範囲で行うべきだ」との回答も36%あり、痛みを伴う改革の賛否はほぼ拮抗(きっこう)した。力を入れてほしい改革の質問(複数回答)には「人件費抑制」が52・3%で最多。「事務事業見直し」(43・8%)、「職員のサービス意識向上」(37・7%)、「出資団体整理、健全化」(26・6%)、「公共事業抑制」(25%)と続いた。(伊東浩一)

両記事では,茨城県における公共事業に対する専門家による評価と,行財政改革の取り組みに対する県民輿論調査結果を紹介.同県の公共事業評価システムとこれまでの再評価結果に関しては,同県HPを参照*1.2007年度までの評価対象265事業を見てみると,「継続」が224,「事業内容の見直し」が17,「現計画の再検討」が1,「休止」が1,「中止」が8という結果.
第一記事は専門家による評価,第二記事では広く県民一般による意見とその性格は異なる記事.ただし,両記事を拝読すると,専門家と県民との関係を考えてみる上でも興味深い記事.第一記事では,公共事業の中止・休止対象は2003年以降はない,との専門家による評価がある一方,第二記事では,県民では「力を入れてほしい改革」事項に関しては,「公共事業抑制」を挙げる県民は,他の項目に比べると低割合にあるものの,回答県民の4分の1はあるとも見て取れる.同輿論調査結果と審議会の評価を見ると,「専門家の翻訳機能,標準化機能,媒介機能」*2との間で,若干の乖離があるようにも見て取れる.恐らく,この若干の乖離は,同審議会では,同記事にもあるような公共事業自体の総量が減少しているという要因等の「政策開発とその実施を通じた,各種政策・計画・事業に関する十分に情報を得たなかでの意思決定」を図るうえでの「根拠が明確な政策と実践」(evidence-based poliy and practice)*3により同県の公共事業中止・休止が「ゼロ」との審議・評価がなされており,方や県民輿論調査においては,県民が見解を示す折に,その「根拠」がないなかで回答されたことも想定される.果たして,同調査時には,県民に対してどの程度,根拠となる行政・政策情報を提示されたのだろうか.興味深い.
いずれかの評価及び意見が絶対的であるということではないだろうか,少なくとも建設的政策の継続・廃止を検討する上では,一定程度の根拠を有する調査結果の情報を共有することや,県民輿論調査に際しても,専門家が介在する9月1日付の本備忘録でも取り上げたような「討議的意識調査」のような試みもまた適当か.

*1:茨城県HP(政策審議室公共事業等の事業評価)「公共事業の再評価について

*2:武智秀之『政府の理性、自治の精神』(中央大学出版部,2008年)175頁

政府の理性、自治の精神

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*3:Sandra M. Nutley,Using Evidence: How Research Can Inform Public Services,The policy press,2007:13.

Using Evidence: How Research Can Inform Public Services

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