保育園への入所を待ち続ける大量の待機児童を解消するため、来年度から三年間、都市部の一部地域の認可保育園で、国の定める園児一人当たりの保育面積の最低基準が引き下げ可能になる。しかし東京都内で対象となる二十四の区市のほとんどは、基準引き下げに否定的なことが各自治体への取材で分かった。定員は増やせても「詰め込み保育」による子どもへの悪影響が心配されるためで、対策としての効果そのものを疑問視する自治体も多い。 (小林由比、柏崎智子)
 都内では中央、江東、港など十五区と立川など九市が該当。引き下げの具体的な運用は都条例で定め、都は待機児童が多いゼロ、一歳児について、一人当たり面積を三・三平方メートル以上から同二・五平方メートル以上にできる条例案を策定中だ。ただし、行きすぎた「詰め込み」状態とならないよう、引き下げは年度途中に募集する場合に限る。
 東京新聞が今月、各区市に意向を取材したところ、中央、文京、港、北、世田谷、板橋、葛飾の七区と立川、三鷹両市は緩和しない方針と回答。「保育の質が落ちる」(文京区)という趣旨の理由が主だった。保育の質を考えてゼロ歳児などの面積基準を五平方メートルにしている自治体もある。「待機児童対策は面積基準の問題とは思わない」(立川市)、「国が国民に保障する最低限度は簡単に変えるべきでない」(三鷹市)という意見もあった。他の自治体も「検討中」としつつ、「実施は難しい」と話すところがほとんどだった。
 保育園は一般的にゼロ、一歳児で入園しそのまま卒園する子供が多く、一歳児までの定員増により、二、三歳児での入園が今より難しくなる心配も。ある市の担当者は「入りやすいゼロ歳で申し込もうと育休を取らない保護者が増える可能性がある。低年齢児の入所希望が殺到し、かえって混乱を招くだけ」と実効性には否定的だ。根本的な対策に自治体が挙げたのは「施設整備」だ。「二十年ほど新設しなかったが、遅ればせながら、来年度から順次三園を開設する計画」(小平市)、「来春二園がオープンする」(東村山市)など、具体的に取り組んでいる自治体も多く、その成果を見極めたいという声が強い。
 厚生労働省保育課は「今回の基準引き下げの根底には、住民に身近な課題を自治体が適切に考えてほしいという地域主権の考え方がある。緩和をしない、という判断もあると思う」と話している。

厚生労働省は来年度から3年間、首都圏を中心にした35市区に限って、認可保育所の面積基準を一部緩和できるようにした。待機児童を減らすため、基準を柔軟にし、受け入れ人数を増やそうというのが狙いだ。ただ、制度が中途半端なうえ、自治体の横並び意識もあってか、地方に分権されたにもかかわらず、首都圏の自治体は総じて慎重だ。
 4月時点で688人と東京都内で待機児童が最も多い世田谷区。地価が高く土地の確保が難しいことから、区立小中学校8カ所の校庭に保育所を開設するなど苦肉の策で定員を増やしているが、それでも保育ニーズに対応できない。基準を緩めれば、定員が増やせそうだが、区の担当者は「考えていない」と強調する。「0歳児、1歳児を預かるには1人あたり3.3平方メートル以上」「2歳以上なら同1.98平方メートル以上」……。厚生労働省は省令で認可保育所の基準をこと細かく定めている。待機児童の問題が深刻なため、35市区に限り、3年間、面積の基準を独自に緩和できるようにした。このうち32市区が首都圏に集中している。ただ、制度はやや複雑だ。政令市や中核市以外では、まず都県が条例で緩和できる範囲で定めることが必要になる。都は同問題が特に深刻な0歳児、1歳児の基準を緩和し、1人あたり2.5平方メートル以上にする方針。

■「問題解決せず」
 世田谷区の担当者は「0歳児、1歳児の基準だけを変えて定員を増やしても問題は解決しない」と漏らす。1歳児は翌年、2歳児になる。0歳児、1歳児の定員を増やせば、結局、2歳児の定員も増やさざるを得ないが、2歳児以上の基準は全国一律のままだ。また、千葉県市川市は「緩和は3年間の期間限定のため、実施する予定はない」と説明する。保育士不足の問題もある。省令では「0歳児では3人、1〜2歳児では6人に対して、保育士が1人」と定めているが、今回、この基準は自治体が変えることはできない。足立区は「面積を見直しても、保育士の確保が難しい」と指摘する。このため、自治体側からは「現場の状況を踏まえた制度設計になっていない」との不満が出る。

■「詰め込み反対」
 ただ、それだけではないようだ。子供を保育所に入れたいという母親からは「少しでも定員が増えるなら」と緩和を求める声もあるが、すでに子供を保育所に入れている親は「これ以上、詰め込まないでほしい」という反対派が多数だ。保育所側も反対が多い。「現行でも欧州の保育所より児童1人当たりの面積は狭い。緩和して保育の質を確保できるのか」。横浜市との会合で、同市内のある保育所はこう詰め寄った。林文子市長は「保育関係者の意見を聞きながら、よりよい保育環境を確保したい」と独自基準に慎重な姿勢を取る。さいたま市も「1人あたりの面積縮小による子供への影響などが不明で、あえて緩和する理由はない」との立場だ。
 
 保育所の基準は60年以上前に定められたもので「根拠が明確でない」との見方もある。独自に基準を作ろうとしない背景には「突出することで住民から批判を受けることを嫌う自治体の横並び意識」(ある県の担当者)があるのかもしれない。慎重な自治体が多いことについて厚労省は「自治体の判断についてコメントするつもりはない」(雇用均等・児童家庭局)としている。

両記事では,東京都に位置する市区における認可保育所の面積要件緩和に対する考え方を紹介.東京新聞及び日本経済新聞による調べ.
2011年10月4日に公表された「平成23年4月1日現在」での「保育所待機児童数の状況」は,全国の総数では「25,556人で4年ぶりに減少」*1されたとはいえ,依然として,「都道府県別」では,東京都では「7,855」*2名と最も多い状況にある.これらの対応としても,厚生労働省では,2011年7月28日付の本備忘録でも記録したように,「児童福祉施設最低基準の条例委任」のなかの「保育所の居室面積基」に関しては,「厚生労働大臣が指定する地域」では「標準」」*3と位置付けられており,2012年4月より実施される.
両記事からは,いわゆる「自由度の拡大路線」*4としての認可保育所の面積基準の緩和の取組を受けての現状認識を窺うこともでき,興味深い(ただ,回答者は首長なのだろうか,又は,所管部門なのだろうか.場合によっては,その回答される方により認識に差異があるかもしれません).第一記事を拝読させて頂くと,同緩和を受けて「二十四の区市のほとんどは,基準引き下げに否定的」とも報道.
なるほど確かに,国による緩和措置を受けての選択にも,各自治体毎の判断により,その自由度の結果を選択しないこともまさに自治.ただし,「自由度の拡大路線」が分権改革であるとの前提に立てば,両記事から窺えるこれら各市区の認識に関しては,「国が政策を採用する」場合でも「政策採用に伴う不確実性」は「大きく」は「低下」することは無いと判断され「自治体は先を争って政策」の不「採用に走る」「横並び競争」*5として整理すべきか,はたまた,「分権化が他方で現場職員の反分権的(集権的)指向を生み出す」とされる「分権化のパラドックス*6の一つとしても整理すべきか,考えてみると悩ましい.上記の待機児童数の現状のなかで,各市区の今後の対策も,要経過観察.

*1:厚生労働省HP(報道・広報報道発表資料2011年10月)「保育所関連状況取りまとめ(平成23年4月1日)

*2:厚生労働省HP(報道・広報報道発表資料2011年10月)「(資料4) 23/4/1 全国待機児童マップ (都道府県別)

*3:厚生労働省HP(政策について分野別の政策一覧子ども・子育て子ども・子育て支援 社会的養護2011年10月)「資料8 児童福祉施設最低基準の条例委任について

*4:西尾勝「四分五裂する地方分権改革の渦中にあって考える」『分権改革の新展開』(ぎょうせい,2008年)3頁.

年報行政研究43 分権改革の新展開

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*5:伊藤修一郎『自治体発の政策革新』(木鐸社,2006年)32頁

自治体発の政策革新―景観条例から景観法へ

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*6:嶋田暁文「地方分権と現場改革−分権改革によるインパクトはなぜ乏しいのか」北村喜宣編著『ポスト分権改革の条例法務』(ぎょうせい,2003年)98頁

ポスト分権改革の条例法務―自治体現場は変わったか

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