国土交通省が計画している淀川水系の四つのダムについて、同省近畿地方整備局の諮問機関「淀川水系流域委員会」(宮本博司委員長)が22日、ダム建設は適切ではないとする意見書をまとめた。近く、同整備局に提出する。意見書では計画原案を見直し、流域委に再度提示することも求めている。国交省のダム計画をめぐり、諮問機関が「脱ダム」の方針を答申するのは極めて異例。各分野の専門家で構成する流域委が示した結論に対し、整備局がどう対応するか注目される。
 流域委が意見書で、河川整備計画に位置づけることが「適切でない」としたのは、大戸川(だいどがわ)(大津市)▽天ケ瀬(京都府宇治市)▽川上(三重県伊賀市)▽丹生(にう)(滋賀県余呉町)の4ダム。流域委は、計21回の会合で整備局に開示させたダムの治水効果のデータや事業費などを検証。大戸川ダムは200年に一度の洪水時に淀川の水位を19センチ下げる効果しかないことや、川上ダムは自治体同士で水利権を融通すれば新たな利水の必要がなくなることなどを明らかにした。こうした指摘に整備局から十分な説明がないとして、流域委は意見書で「ダムの必要性に十分説得力のある内容になっていない」と判断した。また、遊水地や河川改修などのダム以外の治水案についても「検討が不十分」と指摘。「ダムの必要性や緊急性を検討するには、堤防強化などの対策との組み合わせについて、事業費を明示し、優先度などを総合的に検討することが不可欠」とした。97年の河川法改正で、河川整備計画に住民の意見反映が盛り込まれ、流域委は01年、その趣旨に沿って設置された。03年には、余野川(大阪府箕面市)を含む5ダムについて「原則建設しない」ことを提言。整備局は05年7月、大戸川、余野川の2ダムを凍結するといったん発表した。しかし、07年8月、「余野川以外のダムは必要」との姿勢に転じ、4ダムの建設・再開発を盛り込んだ河川整備計画の原案を策定。整備局主導で、半数の委員を入れ替えた流域委にこの原案を諮問した。同省近畿地方整備局の谷本光司・河川部長は意見書について「ダム建設が適切でないと我々が納得できるような根拠のある内容ではないと考える。きちんとデータを説明すれば、ダムの必要性を理解してもらえると思う」と話した。原案の再提示の求めについては「原案はあくまでも計画をつくるためのたたき台で、つくり直す性質のものではない」とした。

同記事では,「淀川水系流域委員会」が,4つのダム建設に対して適切ではないとの意見書を取りまとめたことを紹介.内容の詳細は,当該委員会HPに掲載*1
淀川水系流域委員会は,1997年の河川法改正によって,河川整備にあたりそれまで策定されてきた「工事実施基本計画」が,長期的な河川整備に関する方針を定めた「河川整備基本方針」と,具体的な内容を記載する「河川整備計画」に分けて策定されたことを受けて,後者の河川整備計画に,住民意見を反映する仕組みとして,淀川において置かれた委員会.仕組み自体には,「住民意見による社会的合意形成という視点からは,相当に画期的なもの」と評価され反面,同記事のように「住民意見が政策形成過程に必然的ビルト・インされるシステムにはなっていない」ともされる*2.各種専門的見地,そして,地域の意見へのアクセスポイントを設けることはよい.ただ,委員会として審議・結論として出された意見が計画策定上の「参照」に止まるような仕組みであれば,委員会側にとってみれば虚無感のみが残る.もちろん,国交省近畿地方整備局側にとって見れば,諮問機関であり決定機関ではないことも事実.この点からは,同記事での部長発言も妥当とも思える部分もある.であれば,当然,河川整備計画という計画の特性を踏まえて委員会への諮問の仕方もあったのかとも思う.諮問機関の役割を考えさせられる事例.

*1:淀川水系流域委員会HP「淀川水系河川整備計画原案(平成19年8月28日)」に対する意見(案)(080422版)

*2:三好規正『流域管理の法政策』(慈学社,2007年)86,87頁

流域管理の法政策―健全な水循環と統合的流域管理の実現に向けて

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