職員の残業代だけで昨年度、80億円以上を支給した大阪市が、家庭の温かさを想起させる〈癒やしの音楽〉で職員の早期退庁を促す作戦に乗り出した。来春には、残業代の割増率を引き上げる改正労働基準法が施行されることになっており、職員給与カットなどで財政再建を図る市の奇抜なアイデア。ただ、「仕事の効率アップが先では?」という声もあり、さて、効果のほどはいかに――。

 市庁舎の多くの窓に明かりがともる午後8時半。優しいハープの音色で、郷愁を誘うスコットランド民謡の「ロッホ・ローモンド」が2分間、庁内スピーカーから流れる。定時退庁時刻を3時間オーバーしていることを知らせる狙いで、4月下旬から始めた。
 市幹部は「音楽が帰巣本能を高めるという科学的根拠はない」というが、ある職員は「温かい家庭を思わせるメロディー。帰りたくなるかも」と話す。市が係長級以下の職員に支給する残業代は1時間当たり平均2800円で、昨年度は約83億円(一般会計)。来年4月からは月60時間を超える残業については、割増率が現在の25%から50%に引き上げられるため、このままでは市は来年度、約1700万円の負担増が見込まれるという。
 これまでも「ノー残業デー」の毎週水曜日には、平松邦夫市長が退庁を呼びかけるテープを流してきたが、市幹部は「音楽で残業代を抑制できれば画期的。音色を残業代アップの合図と考える不届きな職員はいないと信じています」。

同記事では,大阪市において,同市職員への早期退庁を促すために「癒しの音楽」を20時30分に流し始めたことを紹介.2008年8月8日付の本備忘録でも取りあげたように,個々の職員のchoice architecture*1において自発的行動を促すための取り組み.
超過勤務に対しては,理屈上は,総体としての職員業務を管理する職次第による部分も大きいようにも考えられなくもないものの,その管理が行えきれない状況にあるようにも窺える.
自治体の執務形態については,「大部屋主義」的な要素を基調としつつも,実質的には「個室主義」*2(極端にいえば,大部屋主義の中の個人主義)の執務形態がその主流である(又は,移行しつつある)とも観察できそうか.もちろん,職場の同調整圧力による超過勤務や,同市にも設けられている,個人情報保護の取り扱いに関する指針*3や情報セキュリティ対策*4により,いわゆる「ふろしき残業」としての「USB残業」もまた,実質的不可能な執務状況にもあることで,超過勤務が発生した場合には,(理屈上は当然ではありますが)庁舎という執務空間内で業務を行い続けざるを得ない.
同取り組みが職員退庁への「促し」となり,更には超過勤務の対象となる業務管理に結びつくかは,要観察.

*1:Rihard H. Thaler,Cass R.Sunstein,Nudge,Yale University Press,2008,pp.99−100

Nudge: Improving Decisions About Health, Wealth, and Happiness

Nudge: Improving Decisions About Health, Wealth, and Happiness

*2:礒崎初仁・金井利之・伊藤正次『ホーンブック地方自治』(北樹出版,2007年)183頁

ホーンブック 地方自治

ホーンブック 地方自治

*3:大阪市HP(情報公開・個人情報保護個人情報保護大阪市が取り扱う個人情報について)「個人情報を適正に取り扱うために

*4:大阪市HP(情報化電子自治体の取組み)「情報セキュリティ対策の取組み