- 作者: 村上智彦
- 出版社/メーカー: エイチエス
- 発売日: 2008/05
- メディア: 単行本
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さて,同書は,現在の地域医療・自治業界においてその取り組み・発言への注目度が最も高い人物である村上智彦医師の,子供のころから,地域医療を選択し,各地で取り組み,そして,現在,夕張市で取り組む予防医療等に取り組む上での考え方や手法(「スキーム」)を,余すところなく語ったインタビュー本.頁の随所に刺激が多い良書.
村上医師の発言部分の一つ一つは,明確なポリシー(例えば,「医療って目的ではない.町づくりのためにあるんですよ.安全保障です」(232頁))に基づき.説得力がある.村上医師特有の明快な語り口は,時に住民・自治体・病院に対して厳しい指摘も多々あり,いささか「正論」過ぎると拒否感を覚える読み手もあるかもしれない.しかし,何れも実践に裏付けられた発言であり,そのため正鵠を射ており,心に響くことは間違いない.「最終的には,熱意とか情熱とかが人を動かす」(109頁)との言葉通り,村上医師の言葉には熱意と情熱が満載.例えば,本書から幾つかその言葉を拾い上げてみると,次の通り.
まず,病院や地域医療に携わる医師のあり方については,「病院というのは,実はすごい矛盾を抱えていて,いい医療をやろうと思ったら,病院が潰れることがわかったんです」(43頁),「歌って踊れる医者にならなきゃだめだって」(93頁),「医師法の第一条で,僕らは医療と保健指導が仕事で,公衆衛生の向上が目的なんです.病院が設けて,はやる病院をつくるのが目的じゃないはずです」(227頁),「社会保障の世界だけは,正論が通って理想があっていいと思う」(238頁),「地域に対する理想と倫理感を持つことですね」(238頁)という.医師法第一条の通りでよいというのは,慧眼.
また,自治体と病院との関係については,「医療と行政の両方に目が届く人たちが保健師なのです.医者は,行政のことなんてよく知らない.例えば,議会に通す文書が書けないんです.ところが保健師は作れるんです」(73頁),「帰りたい,あるいは地域にいたいと思わせるなら,それなりの仕組みを整えない限り無理ですよ」(135頁), 「お金がなくても知恵さえあればできる」(176頁),「田舎は高齢化率が高いんだから,プライマリケア医を配置して,予防とケアに特化すべきです.都市部に高度先端医療を集めて,そこで集約するしかないんですよ」(191頁),「三越を田舎に建てようってなるからだめになるんです」(192頁),「町づくりなんです,医療って」(195頁)ともいう.予防中心の医療体制こそが,結果として,医療費を低く抑え,納税率を高め,まちづくりにも貢献する,故に予防医療に重点を置くべきという指摘には,納得.
更に,住民に対しては,その住民像は明確かつ厳しい.「健康意識が高いということが医療費が低い秘訣.病院が立派だから医療費が低いとか,健康な人が多いわけではない」(79頁),「住民に自立心がないと病院も町も成り立たない.だから,どうしたら住民が依存ではなく自立していけるか,そこが町づくりのはじまり」(106頁),「かかりつけ医をもつということ」(126頁),「住民が病院嗜好,わがまま嗜好に変化しつつあるんです」(167頁),「住民のウォンツとニーズの違いを認識していない」(174頁)とある.住民各自の意識と行動また見直しがなければ,自立がないという.納得.
最後に,自治体・北海道・夕張市.行政に対しても,「自治体というのは住民たちがつくるもの」(75頁),「北海道の行政って半分恫喝みたいなショック療法をやらなきゃ絶対に変わらないっていうのを身にもって知っています」(97頁),「公務員の悪いところは,自分たちの組織を守ることが第一になってしまう」(99頁),「夕張は破綻したからこそ,実はものすごく選択肢がいっぱいある」(103頁),「いいこと言っているんですよ,厚労省.ただ具体化するのが下手なだけ」(198頁),「具体化は現場にやらせないで,一律にやってしまうから,全国均質みたいになって,わけのわからないことになってしまう」(199頁),「地域医療の崩壊の根本は住民意識」(218頁)ともある.
東京の主要書店では棚売りしている箇所が余りないようであり,残念.ネットにて購入.