高い業績を挙げた職員はボーナスを10万円アップ−。県は11日、困難な課題に挑戦し、成果を挙げた職員を表彰する制度を創設。最優秀賞となった職員のボーナスを10万円程度上乗せすることを決めた。県が表彰制度に基づきボーナスを上乗せするのは初めて。
 県人事課によると、同制度は県政課題の解決に取り組み、顕著な業績を挙げた職員を各部局ごとに推薦。横内正明知事が選定し、年度末に表彰する。このうち特に優れた職員数人程度については「チャレンジ優秀賞」として、夏のボーナスのうち勤勉手当に10万円程度の上乗せを行う。チャレンジ優秀賞以外の職員は上乗せはないものの、チャレンジ奨励賞を贈る。 一方、既に実施している職員提案制度についても最優秀賞は10万円程度、優秀賞は5万円程度、それぞれ冬のボーナスに上乗せする。上乗せする勤勉手当は合わせて100万円程度とみられるが、県は新たな予算措置を行わず、勤勉手当予算の枠内で調整し、支給する。

 職員による事務処理ミスが続発したことを受け、再発防止策を協議してきた山梨県は11日、ミスによって県に損失が生じた場合、故意や重大な過失でなくても減給や停職を含む懲戒処分とすることを決めた。県はこれまで軽微な過失では原則、県の内規による処分で注意を促してきた。5月に県教委職員の納付ミスで延滞税など約750万円の県負担が発生、県民から強い批判が起きたことを踏まえ、厳罰化を打ち出した。
 事務処理ミスをした職員の処分をめぐっては、県は過去の事例をもとに地方公務員法による懲戒処分ではなく、内規に基づく文書訓告処分などにしてきた。ミスによる損失を県費で穴埋めする一方で、処分が軽いことに県民から批判の声が出ていたが、横内正明知事は法律の規定を理由に懲戒処分には否定的な見解を示してきた。この日開かれた検討委員会(委員長・芦沢薫副知事)では責任の明確化を図るため、職員に従来の規定で懲戒処分の対象となる故意や重大な過失が認められなくても、県に著しい損害が発生し、損失を県費で補てんする場合、戒告以上の懲戒処分とする方針を決めた。既に処分が出ている事例は対象にしない。 検討委は厳罰化を柱とした対応方針を策定。チェックリストの作成など点検内容や方法をマニュアル化することや、重大な結果に至らなかったヒヤリ・ハット事例集の作成を明記。業務の主担当者に加え副担当者も決裁ルートに組み入れ、相互チェック体制を強化することも盛った。

両記事では,山梨県における人事管理において,新たな「自治の仕組み」を取り入れる予定であることを紹介.
第一記事では,職員表彰制度を導入することを紹介.年度内において「顕著な業績」をあげた場合には,賞与に10万円の上乗せがあるとのこと.また,政策提案制度において最優秀であれば10万円,優秀であれば5万円を同じく賞与に上乗せされるともある.第二記事では,通常業務上の処理ミス等に対する「厳罰化」を紹介.故意・過失がなくとも懲戒処分の対象となるという(いわば,「結果無価値」化なのだろうか?).また,その予防のために,チェックリストの作成,ヒヤリ・ハット事例集の作成による啓発や,より具体的には,副主任も決済者に加わり相互チェックを行う仕組みに改めるとある.いずれも同県HPには,現在までに掲載されておらず,詳細把握ができず.残念.
職員さん達に限らず,人は「効用最大化の原則よりも,努力の最小化というかなり現実的な原則に従って」*1行動しがちであるなかで,行動の規律付けをするための,まさに,Carrot and Stickの仕組みの整備.
2008年9月11日に開催された職員提案報告会に関しては,同県HPを参照*2.今年度は67件の募集のうち,最優秀賞が4件,優秀賞は6件との評価あったとのこと.産経新聞の報道では今年度の表彰者のご所属とお名前*3,読売新聞の報道では最優秀とされた職員提案の内容が紹介.同紙によると「職員が送る電子メールの最後に,桃や富士山など県のPR文を3行ほど付け,職員全員が“観光部長”を務めることを提案」*4されたとある.電子メールは,大きな広告媒体でもあるということか.
ただ,これらの各仕組み.仕組み整備の目的は良いものの,実際の運用が滞りなく進むのかと考えてみると,逆説的ではあるが仕組み上の課題も多いようにも思う.例えば,表彰制度についていえば,既存の人事評価制度*5との相互補完性の確保が問題となりうるのではないだろうか.つまり,人事評価制度で行われている年度当初の目標設定時に,第一記事にある「困難な課題」なるものと,その対処方針等を,管理職等から担当職員に対して予め明示することが必要かとも思われる.ただ,予め「困難な課題」として設定することができる課題は,ある程度既に解決策が見えているともいえ,本質的に「困難な課題」といえるかは疑問が残る(整理できるものであれば,そのような悠長な対応を取ることが適当かとも思わなくもない).このように,年度当初に,事前の評価基準が設定されなければ,表彰自体が「後知恵」(hindsight)的評価ともなりやすい.特に,同記事でもある「顕著な業績を挙げた職員を各部局ごとに推薦」という「推薦」の仕組みでは,「評価者の広範な裁量に委ねられる」*6 ことになる懸念が抱かれることも避け難いようにも思われる.そのためにも,評価基準の設定と公表,評価結果の理由付手続の整備は不可欠か.
また,第二記事に関しては,特に副担当者の決裁者としての位置づけに関しては,相互チェックの機会を設ける取り組みとして評価されるものである一方で,実質的なチェックとなりうるかに関しては,疑問もなくはない.年度当初の主担当・副担当者への業務分担により,恐らくは,副担当者にも他の主担当としての業務お持ちではないかと思われる.その場合,主担当者と同等に業務把握を行っていること(行いうること)があるのだろうか.確かに,決済上の手続上の統制は可能かとも思うものの,より実質的な統制なりうつのかは,同県の執務状況次第でありよく分からない.また,組織の基本は官僚制であり,官僚制は「プログラムとヒエラルキー」からなるとすれば,これらの業務は本来はミドル層が果たすべきものとも思わない向きもない.ただ,実際に組織が機能するためには,「官僚制機構の基本骨格」*7ともいえる「分業」(具体的には,ロワー層の「ルーチンワークの精確な遂行」,ミドル層の「是現在の業務の例外処理判断」,トップ層の「長期の戦略思考」)を進めつつも,これらの業務をいずれかではなく,「同時」に確保することで,単に厳密な垂直分業を図るのではなく,「緩やかな」分業を併せ持つことが適当とも観察されている(36〜37頁)ことからすれば,統制の分業もまた,垂直的な分業を超えた運用の妙次第ともいうことか,なかなか難しい.

*1:マッテオ・モッテリーニ『経済は感情で動く』(紀伊国屋書店、2008年)313頁

経済は感情で動く : はじめての行動経済学

経済は感情で動く : はじめての行動経済学

*2:山梨県HP(知事の部屋:最近の出来事一覧)「政策提案・最終審査及び政策提案・課題提案表彰式

*3:産経新聞(2008年9月12日付)「優秀な職員提案を表彰 山梨県

*4:読売新聞(2008年9月12日付)「県職員が施策提案

*5:山梨県HP「人事評価制度の概要)「政策提案・最終審査及び政策提案・課題提案表彰式

*6:下井康史「人事評価システムにおける制度的工夫について(試論)」『地方公務員月報』2008年8月号,541号,9〜11頁

*7:沼上幹組織戦略の考え方』(筑摩書房,2003年)25,36〜37頁

組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために (ちくま新書)

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