鳥取県智頭町の新年度予算編成に向けて町民自らが政策立案する「町百人委員会」(小林実夫委員長、百四十人)は十四日、自然環境を生かした「森のようちえん」構想、医師・看護師の確保、議員報酬の見直しなど二十一項目の予算案と提言を寺谷誠一郎町長に説明した。町は今後内容を吟味し、来年三月議会に提出する新年度当初予算案に優れた案を取り入れる。
 百人委員会が提案した予算案の総額は約二十一億八千万円。商工・観光、生活・環境、保健・福祉・医療など六部会の代表が、町中央公民館で開かれた公開ヒアリングで企画内容(表参照)を説明。町民、議員らを合わせ約二百人が出席した。保健・福祉・医療部会は、智頭病院の医師・看護師不足を解消するための奨学金制度の創設や、住民の福祉意識を高めるソフト事業の充実を要請。町幹部は「医師の奨学金は智頭町独自では難しいが、看護師の奨学金は必要」と前向きな考えを示した。教育・文化部会は欧州で四十年以上の実績がある野外教育「森のようちえん」の考えを参考に、豊かな自然環境の中でモノづくりなどを体験させる幼児教育の実現を強くアピールした。百人委員会は六月の選挙で返り咲き当選した寺谷町長の公約の一つ。町によると、住民による予算案の立案は全国にも例がないという。提案を聞き終えた寺谷町長は「議会、住民、町職員の三輪車で町を引っ張っていこう。多くの住民が(町政を)憂えて参画したことを誇りに思う」と話した。

同記事では,智頭町において設置された百人委員会が予算案を確定し,同提案をもとに,町長・担当部門との間で「公開予算ヒアリング」を行ったことを紹介.
10月18日付の本備忘録でも取り上げた,智頭町による「参加型予算」*1として,予算原案段階から住民が調製する大なる実験.12月2日付及び同月16日付の毎日新聞でも,11月16日付の本日備忘録でも紹介させていただいた鳥取県における全国学力テストと情報公開に関する優れたケースレポートを記された同紙同記者により,「公開予算ヒリング」までの経過と同日の様子を紹介*2.記事を拝読する限りでは,会場の熱気を感じる(同町の実験も又,その内因性を含めてケースレポートとして公刊されると良いのだが).同紙によると,今回の「公開予算ヒアリング」後の予定は,12月中に再び町執行部で「政策についてヒアリング」が行われ「予算化の可否」を決定し,2009年3月の町議会において「審議」予定とのこと.
同記事でも紹介されているように,同委員会では6つの部会(行財政改革/商工・観光/生活・環境/保険・医療・福祉サービス/農業・林業/教育・文化)に分かれて原案を策定.ただ,同委員会が提案した21億8000万円という額に関しては,目的別予算で整理すれば,何れに該当するかは,同記事及び上記毎日新聞の報道では判然としない.部会の名称からすれば,総務費・民生費・農林産業費・商工費・消防費・教育費が該当するのだろうか(同委員会の提案内容を拝見したいなあ).仮に,これらの目的別予算の区分に倣うと仮定すると,同町における2008年度当初予算の該当区分での総額が28億243.9万円*3(つまり,議会費・衛生費・労働費・消防費・公債費・予備費を除く.ただ,同記事では,議員報酬の見直しをも提案されていることも報道されており,議会費も含めた方が適当ともいえそう.うーん,やはり内容を拝見してみたいなあ)であり,住民による予算要求となれば膨張した要求額が直感的には想定されるものの,同町の同委員会の提案は,(区分費目の一致・不一致もあるかとは察せられるが)抑制気味な予算原案とも解される.
同町住民による予算原案の調製という「自治活動」は,「情念的判断」*4のみならず,「理性的判断」によって進められたといえそうか.興味深い.

*1:諸富徹・門野圭司『地方財政システム』(有斐閣,2007年)241頁)

地方財政システム論 (有斐閣ブックス)

地方財政システム論 (有斐閣ブックス)

*2:毎日新聞(2008年12月2日付)「鳥取・智頭町:究極の自治 住民が政策考え予算案づくり、140人無報酬で」,毎日新聞(2008年12月16日付)「智頭町:弁当「智頭弁」を、林道整備を…住民ら立案、予算要求−−百人委 /鳥取

*3:智頭町HP(予算・決算当初予算・平成20年第1回定例会 議決結果(平成20年3月) )「【公表資料】目的別歳出状況

*4:武智秀之『政府の理性、自治の精神』(中央大学出版部,2008年)鄱頁

政府の理性、自治の精神

政府の理性、自治の精神