上記雑誌の巻頭言として記された同文,昨日,宿泊地から学会会場への移動の際に拝読.短文ながらも時代状況と制度のありかたを非常に考えされる一本.
同文は,「存在していても忘れられている」と解される,いわゆる「公共団的体等の監督」が規定されており,長による公共的団体等の「綜合」調整権が明記されている,地方自治法第157条に対する疑問が呈されたもの.同文では,同条が「長の専断に対しては議会による牽制がなされる」一方で,「「新しい公共」の担い手の一方の旗頭(なお,他方の旗頭は私企業)である「区域内の公共的団体等」の活動に対して,自治体が広範に監督することを認めることには,違和感を覚える」との見解が示された後,制定経緯を振り返りつつ至った結論としては,「地方自治法157条の規定は,もはや不要なのだろう」とある.なるほど.
下名もまた「忘れている」グループに属し,同条をその存在を確認したのは,『ホーンブック 地方自治』のお手伝いをした折,columu19を拝見した際のこと.同書では,「協働には,あまりふさわくなさそうな法的規定」との見解とともに,同文と同様に同条の沿革を振り返りつつ,「ここでの「公共的団体等」が具体的に何を指すのか必ずしも明らかではない」として,「住民活動が活発化し,とくに,公務住民としての多数の住民団体NPOが行政と活動するようになると,改めて,自治体の首長・議会・行政職員と住民団体・公共的団体等の関係や,協働の中での首長・議会の役割などが,問い直されよう」との問題提起がなされている*1
同条に対する解釈では,その「公共的団体等」として,「農業協同組合森林組合,漁業協同組合,生活協同組合,商工会議等の産業経済団体,社会福祉協議会社会福祉団体,赤十字社等の厚生社会事業団体,教育団体,青年団,婦人会,文化団体,スポーツ団体等の教育文化スポーツ団体等」の列挙されるとともに,「いやしくも公共的な活動を営むものはすべてこれに含まれ,法人たると否とを問わない」*2ともあり,包含するものは広い.そのようななか,同条でいう「指揮監督」としては,「監視権,認可権,訓令権及び取消又は停止の命令権」のうち,「「取消・命令権」までを含むか否かについては必ずしも明らかでない」(511頁)とも解されている.
1943年の市制及び町村制改正時に,「戦時体制遂行のため」「上から下への直線的な国策遂行体制を整えるためのもの」*3として新設された同規定.そのため,現況の「公共的団体」との関係を一定の視覚から捉えれば,同文等のように「不要」との論評に至ることは一つの見解.ただ,一重に廃止と至るかといえば,自治体と「公共的団体」の関係における明確な線引きを基本としたうえで,そのコストを勘案したうえで,ある種の契約メカニズム*4として捉えなおすことで,同条の「不要」路線以外にも,現況の情報非対称性(asymmetric information)を包含した制度整備(institutional set-up)への活路もありそうにも思わなくもない.少し考えてみたくなる.

*1:礒崎初仁・金井利之・伊藤正次『ホーンブック地方自治』(北樹出版,2007年)230頁

ホーンブック 地方自治

ホーンブック 地方自治

*2:松本英昭『新版 逐条地方自治法第5次改訂版』(学陽書房,2009年)510頁

新版 逐条地方自治法

新版 逐条地方自治法

*3:今村都南雄,辻山幸宣編著『逐条研究地方自治法Ⅲ』(敬文堂,2004年)388頁

逐条研究 地方自治法〈3〉執行機関―給与その他の給付

逐条研究 地方自治法〈3〉執行機関―給与その他の給付

*4:Jan-Erik Lane,Public Administration And Public Management: The Principal-agent Perspective,Routledge,2005,254-256

Public Administration & Public Management: The Principal-Agent Perspective

Public Administration & Public Management: The Principal-Agent Perspective