一つの特産品振興のために、特産品の名前を冠した専門の「課」を設けて売り込みを図る地方自治体の動きが注目を集めている。民間と一体の取り組みが進むことに加え、ユニークな課名で知名度が上がる効果も生まれている。

お茶の手もみ技術 継承/静岡
 お茶どころ静岡県の中でも、島田市は県内3位の生産量を誇る自治体だ。「島田茶」「金谷茶」「川根茶」などのブランドで知られ、品質の高さには定評がある。「お茶がんばる課」ができたのは、2005年5月。お茶の生産振興ばかりではなく、製茶工場の近代化や機械の導入を支援したり、昔ながらの手もみ技術文化を振興したりと、幅広く活動している。松田茂和課長(55)ら5人の課員は市内の茶畑や工場に出向き、農家の要望を聞いて回る。新芽の頃には、生育状況にも注意を払う。茶摘みや手もみの体験会などを開いて、PRにも力を入れる。茶農家の三浦浩司さんは「市と一緒になって宣伝し、需要の拡大を目指したい」と話す。ペットボトル入りの茶の普及などで、茶価は低迷気味。「生産者や茶商業者に危機感を持ってもらわなくては」と、07年からは生産者同士が課題を話し合う「お茶がんばる会」も開いている。(島田通信部 高田育昌、写真も)

梅の品種改良 研究/和歌山
 特産品を課名につけた自治体の「老舗」といえるのが、全国の梅の25%を生産する和歌山県みなべ町だ。町村合併前の南部川村が1973年に「うめ課」を設置、現在5人の職員が「うめ振興館」や「うめ21研究センター」の運営を担う。山の斜面に約1万4000人が住む。約1500戸の農家のほぼすべてが梅を栽培し、加工などの関連業者も多く、「『梅がダメになると町が倒産する』と、町民が一致団結」(うめ課)して振興を図ってきた。08年には「紀州みなべ梅酒特区」の認定も受けた。肉厚でとろけるような食感を持った「南高梅(なんこううめ)」は、町自慢の最高級ブランドだ。健康ブームを追い風に人気が急上昇した。梅作りの歴史や梅干しの効用を紹介する「振興館」は年間2万人以上が見学に訪れる観光スポットでもある。「研究センター」は、農家1軒ごとの土壌を調べた上で、きめ細かな栽培指導や、品種改良、新たな加工法の研究などを行っている。(大阪経済部 戸田博子、写真も)

「いのしし課」害獣活用/佐賀
 佐賀県西部の山間部にある武雄(たけお)市に4月、「いのしし課」が誕生した。同市では、イノシシは農作物を荒らす害獣だ。2008年度の水稲や豆類への被害はわかっているだけで約1400万円(約18ヘクタール)に達し、猟友会が1541頭を駆除したが、その大半は土に埋められていた。しかし、イノシシは処理の仕方でおいしい肉になる。樋渡啓祐市長(39)は「マイナスと考えられていた資源を有効活用し、地域活性化につなげたい」と発想した。「いのしし課」の発足で、駆除したイノシシは、「武雄地域鳥獣加工処理組合」の加工センターで処理されることになった。スライスしたロース肉が100グラム550円など、部位ごとに販売し、年間1000万円の売り上げを目指している。利益は猟友会に還元され、淵辰弘組合長(57)は「これまでより駆除に力が入る」と話す。
 ユニークな課名が注目され、武雄市の名前が全国的に「売れる」効果もあった。ホテル、レストランなどからの商品の共同開発の提案や、イノシシの駆除に悩む他の自治体からの視察も相次いでいる。(西部経済部 久保山健、写真も)

同記事では,「地域ブランドや観光資源を前面に押し出したユニークな組織編制行う自治体」*1を紹介.
同記事内で紹介されている3課のうち,最も新しい武雄市の「いのしし課」について確認をさせていただくと,同様に「ユニークな組織編制」とされる「レモングラス課」や「佐賀のがばいばあちゃん課」と同一の「営業部」内に設置.同課設置の様子は,2009年4月2日付の西日本新聞による報道*2及び同市HPを参照*3.その課名を記した看板のダイナミックさに驚き.同課では,「いのしし会議を所管するとともに、マイナスの財産と捉えられてきたいのししを価値あるプラスの財産に変えていく施策を推進」*4することが目的とのこと.駆除から製品加工までの工程を「一元化」する課設置ともいえそうか.
国のみならず,自治体においてもまた「行政活動(政策の企画・立案と実施)の中心単位は課」*5であるならば,同種の「課」レベルでの名称変更の意義こそが重要ともいえそう.そのため「課」の「組織変動の型」(163頁)として,「新設」(同頁)であるのか,「廃止−新設」(164頁)であるのか,又は,「改称」(166頁)等のパタン抽出や「組織変革のニーズ」(169頁)の分析は,自治体行政組織の観察においても,もう少し広がりを持ちうる観察課題か.

*1:伊藤正次「自治体行政組織の構造変化と改革課題」『都市問題研究』第61巻第4号,2009年4月号,64頁

*2:西日本新聞(2009年4月2日付)「「いのしし課」スタート

*3:武雄市HP(武雄がばいニュース)「いのしし課が新設されました

*4:武雄市HP(市政情報市議会平成21年3月定例会)「市長の提案事項に関する説明

*5:大森彌『官のシステム』(東京大学出版会,2006年)139頁

官のシステム (行政学叢書)

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