弘前市生活福祉課の元課長補佐が生活保護費の返還金を着服するなどしたとされる問題で、県は26日午前、生活保護法に基づき同市役所に特別監査に入った。28日までの3日間、生活保護の事務処理が適正に行われていたかなどを調べ、監査結果に応じて行政指導や、改善命令などの行政処分を行う。県によると、同法に基づき県内自治体を特別監査するのは極めて異例という。
 同日は午前10時半ごろ、県健康福祉政策課の馬場忠彦課長ら職員6人が市役所に到着。市立観光館研修室で、関係書類を確認したり職員への聞き取りを行った。
 同問題では、弘前市生活福祉課が地方自治法に反し、生活保護受給者からの返還金で、返還額が確定していない現金を「預かり金」として課内で保管するなど、金銭管理体制のずさんさが明らかになっている。市によると、元課長補佐は同課配属後の2007年4月以降、生活保護費や返還金計約550万円を着服したとされる。また受給者から預かった現金のうち約9万円を着服し、その後に弁済。計415万円あまりを持ち出し、指摘を受けて返却するまで自宅に保管していた。このほか、課内では計65万円が紛失している。
 市は判明した着服のうち、2件について、業務上横領の疑いで元課長補佐を4月中に刑事告訴する方針。

本記事では,青森県における弘前市に対する,生活保護法に基づく事務監査が実施されたことを紹介.
同法第23条では,「厚生労働大臣都道府県知事及び市町村長の行うこの法律の施行に関する事務について,都道府県知事は市町村長の行うこの法律の施行に関する事務について,その指定する職員に,その監査を行わせなければならない」と規定されており,本記事は,同規定に基づく取組.同法同条に規定される「その指定する職員」に関しては,同法同条第3項により「職員の資格については,政令で定める」*1とされている.
同法施行令を拝読すると,施行令第2条では,「職員の資格」を,「国又は都道府県において社会福祉に関する行政に従事している者」,「国又は都道府県において社会保険,公衆衛生又は医務に関する行政に従事している者であつて,生活保護に関係のある事務を担当しているもの」,「国又は都道府県において保護に関係のある会計の事務を担当している者」*2と,3つの職務に属する者であることを規定.一方で,厚生省社会局長通知「生活保護法による保護施設に対する指導監査について」の「別紙」である「保護施設指導監査要綱」内では,その「指導監査吏員」には,「事実の認定,事務処理の判断,意見の表明を行うに当つて常に公正不偏の態度をもつてしなければならない」*3とも規定し,その「態度」を確保することが企図されてはいる(加えて,監査者といえども,「懇切叮寧を旨とし,謙虚な態度を保持するとともに,指導的配慮をもつて臨まなければならない」とのことです).
会計処理等の適正性確保を目的とされた監査を想定した場合,「政策共同体」*4からの「離隔距離」*5の確保が想定されなくもないものの,一方で,業務の「専門性」からの,監査者と被監査者との近接距離も考慮に入れざるを得ない.統制と知識のディレンマとしても,悩ましい.

*1:厚生労働省HP(厚生労働省法令等データベースサービス法令検索・生活目次(体系)検索)「生活保護法」(昭和二十五年五月四日法律第百四十四号)  

*2:厚生労働省HP(厚生労働省法令等データベースサービス通知検索・生活目次(体系)検索)「生活保護法施行令」(昭和二十五年五月二十日,政令第百四十八号) 

*3:厚生労働省HP(厚生労働省法令等データベースサービス通知検索・生活目次(体系)検索)「生活保護法による保護施設に対する指導監査について」(昭和三〇年一〇月一四日,社発第七七三号,各都道府県知事あて厚生省社会局長通知)  

*4:青木栄一「教育の評価制度と地方政治の変容」山谷清志編著『公共部門の評価と管理』(晃洋書房,2010年)59頁

公共部門の評価と管理

公共部門の評価と管理

*5:金井利之「会計検査院政策評価」『行政の評価と改革』(ぎょうせい,2002年)60頁

行政の評価と改革 (年報行政研究 (37))

行政の評価と改革 (年報行政研究 (37))