中心市街地への進出に補助金を出す浜松市のオフィス誘致制度が2009年7月の導入から1年たっても、申請がゼロだったことが分かった。景気低迷で企業の進出意欲が低いのに加え、他都市の制度と比べて補助金の支給条件が厳しいため。市は「早急に制度を見直す必要がある」(商業政策課)として条件緩和を検討する方針だ。
 浜松市の誘致制度「都心オフィス進出支援事業費補助金」は、中心市街地に新たに拠点を設ける企業が対象。営業所や支店を念頭に置いた「一般オフィス」の場合、従業員10人以上などを条件に月額賃料(共益費など除く)の2分の1(上限10万円)を3年間補助する。
 09年度は一般オフィスで2社の誘致を目指したが、申請はなかった。景気低迷で企業は拠点の統廃合などコスト削減を優先する傾向にあり、新規進出の意欲は低かったとみられる。補助金支給の対象を「従業員10人以上」とした制度設計の問題もある。市商業政策課は「問い合わせはあったが、従業員数など条件に合わなかった。10人はなかなか厳しい」と認める。市の調査では、市内事業所は9人以下が約6割を占めており、10人以上という条件が高いハードルになったのは否めない。
 中部地方で同様のオフィス誘致制度を持つ名古屋、静岡、金沢、岐阜の4市との比較でも、浜松の条件は厳しい。補助金を受給するための最低従業員数は静岡が3人、金沢が地区により3人または5人。岐阜は従業員数の条件を設けていない。浜松と同じく補助金の条件を10人としていた名古屋は、10年度から5人に引き下げるとともに、対象地区を中心部から市内全域に拡大した。その結果、09年度に2件にとどまっていた申請件数が10年度はすでに5件と増加。「問い合わせも増えており、条件緩和の効果はあった」(名古屋市産業育成課)という。浜松市はこうした他都市の例を参考に従業員数などの条件緩和を中心に制度の見直しを進める方針。中心市街地ではオフィスビルの空室率が悪化するなど、活性化策が課題になっている。

本記事では,浜松市における同市中心市街地へのオフィス誘致制度の取組を紹介.同制度の詳細については,同市HPを参照*1
誘致の対象となる地区は,浜松駅周辺の「150ha」.「対象となるオフィス」は,「専ら企業が自らの事業に係る事務処理業務を行うための施設」である「一般オフィス」と「本社及び本社機能を有する事務所又はテレマーケティング関連事業,その他本市の経済の活性化に特に寄与する事業を行うための施設」である「大型オフィス」の2種類.本記事にて紹介されている,同誘致の対象となる「補助要件」と「補助内容」に関しては,まず,前者の「一般オフィス」が「補助対象区域内にオフィスを新たに賃借して新設すること(市内の他区域から対象区域への移転,対象区域内での増設は除く),「本市での事業開設前に5年以上の事業実績を有すること」,「当該オフィスにて常時雇用者を10人以上雇用すること(うち市内在住の正社員を3人以上含む)」であり,「オフィスの賃借料(敷金,権利金,共益費,消費税などを除く)の2分の1相当額(上限:月額10万円)×36ヶ月」が補助されることとなる.次いで,後者の「大型オフィス」は,「補助対象区域内にオフィスを新たに賃借して新設すること(対象区域内での移転・増設は除く)」,「当該区域内での事業開設前に5年以上の事業実績を有すること」,「当該オフィスにて常時雇用者を100人以上雇用すること(うち市内在住の正社員を30人以上含む)」が要件となり,「オフィスの賃借料(敷金,権利金,共益費,消費税などを除く)の2分の1相当額(上限:月額100万円×36ヶ月」,「オフィス開設に要した内装にかかる償却資産(取得価格20万円以上)の取得費(消費税,地方消費税を除く)の2分の1相当額(400万円が上限)×1回(補助開始年度)」*2を補助される.
2008年5月9日付及び同年12月5日付の両本備忘録にて言及した,自治体による「産業政策」*3としての企業誘致制度を通じた,企業側の「足による投票」*4の具現化の様相(同課題は,少し観察を行いたいと常々考えておりますが,未だ手付かずのままです).本記事では,上記の制度整備後の,同市同地域への移動企業は「申請がゼロ」との現状.本記事では,その要因を,上記制度のうち「従業員数」にあるとの分析を示されており,同市では同要件の「条件緩和を中心に制度の見直しを進める方針」にあることもあわせて紹介されている.なるほど.
同制度では,上記の通り,「一般オフィス」では「市内在住の正社員を3人以上含む」こと,「大型オフィス」では「市内在住の正社員を30人以上含む」ことも規定されている.このことは,2010年7月16日付の本備忘録にて区分を試みてみた,「地元企業」の優先化路線の様相もあわせて持つ制度とも整理ができそう.同制度とともに,本記事を拝読すると元来,同制度では,企業の市外から移動を前提よりも,市内での転居(中心市街地へのオフィスの集中化)を優先とされた制度化であるようにも理解できなくもなく,域外からの移動よりもこの転居を前提とされた制度化が,「従業員数」よりも,本記事に紹介された「「申請がゼロ」との現状」に至る一つの要因とも考えられそう.要確認.

*1:浜松市HP(ビジネスインデックス産業振興商業)「都心オフィス進出支援事業費補助金のお知らせ

*2:浜松市HP(ビジネスインデックス産業振興商業都心オフィス進出支援事業費補助金のお知らせ)「浜松市都心オフィス進出支援事業費補助金交付要綱」7〜8頁

*3:礒崎初仁・金井利之・伊藤正次『ホーンブッ地方自治』(北樹出版,2007年)137頁

ホーンブック 地方自治

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*4:畑農鋭矢・林正義・吉田浩『財政学をつかむ』(有斐閣,2008年)170頁

財政学をつかむ (テキストブックス「つかむ」)

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