県庁新館に誰でも入れるレストラン「ぶんご」がある。「地産地消」をモットーに県産食材をふんだんに使った料理が並ぶ。バイキングで1人650円。午前11時半から午後2時半の開店中、制限時間なしで食べ放題。地上50メートルの13階で、窓からは府内城や別府湾、国東半島が望める。おいしくて、景色も良い。なぜこの値段で提供できるのか。秘密に迫った。
 ドアを開けると、まず食券の自動販売機とレジ。前払い制だ。奥に進んでトレーをとる。隣で卵焼きをその場で焼いてくれている。向かって右側がサラダバー。キャベツ、タマネギ、カイワレなど新鮮な野菜が常時8種類ほどある。「好きなものを選べるように」と別盛りにしたのが火箱知弘店長(50)のちょっとしたこだわりだ。ドレッシングは県産を使った「香りゆず」など4種類。反対側の棚には、ごはん類やカレー、みそ汁が置かれている。「ぶんご」で使用する米はすべて安心院米のヒノヒカリ。この日は白米と五目ごはんだった。奥のカウンターには、酢の物やきんぴら、エビフライ、ハンバーグ、麻婆豆腐、パスタ、だんご汁、やせうま……と十数種類の料理がずらりと並ぶ。店長考案の約800種類の中から日替わりで並ぶものもあれば、豆乳を生絞りして作る特製おからや九重ポークを使った肉じゃがなど毎日並ぶものもある。コーヒーやオレンジジュースなどソフトドリンクも飲み放題。パンもある。
 650円の秘密は「県庁だから光熱費や家賃をまけてもらっているからでは」と疑った。「全く、そんなことはありません。家賃もしっかり払い、共益費は面積に応じて支払うので、スペースが広い分、県庁のどこよりも高い値段を払っているはず」と火箱店長。安さの秘密は「野菜のほとんどを県内の契約農家から仕入れているから」との答えが返ってきた。その時その時採れた野菜を採れた分すべて仕入れる契約のため、安く済むという。中には形が悪いものもあり、調理しにくいが、味や栄養に変わりはない。毎日、契約農家がトラックで県庁まで野菜を運んでくれるため輸送費も別にかからない。店内には契約農家の顔写真を置く。「作り手の顔が見えることで、安心安全な野菜だということを伝えたい」という。さらに、人件費はぎりぎりまで削っている。電気は客のいない時間は必要最低限に節約し、今は2006年の開店時の55%に電気代を抑えているという。「正直な話、650円という価格はギリギリです」と火箱さんはもらす。「それでも県庁に出店した意味を考えると、もうけも大事かもしれないが、客、農家双方にとって良い状況をつくりたかった」という。
 「ぶんご」を経営するのは老舗仕出屋「うを清」。火箱さんは「うを清」で料理人をしながら、ずっと県内で頑張っている農家を応援するため何かしたかったという。出店が決まると、自ら田畑を見に行き、家族経営で細々と生産を続けるが、低農薬にこだわり、質は確かという農家と契約した。「後継者不足やTPP。今農家は大変な局面を迎えている。全国一を誇るニラのような野菜もあるのに、県内から農家がどんどん消えてしまうのは悲しい」
 安さの秘密の裏には火箱さんの農家への思いが隠されていた。(城真弓)

本記事では,大分県庁内に設置された食堂の取組を紹介.「安さの秘密」に迫る本記事.
同食堂は,同県庁舎新館13階にある「レストランぶんご」*1.「県庁新館13Fにある絶景展望レストラン」と名乗る,同店独自のウェブサイトを拝見させて頂くと,なるほど確かに,同店では「ランチバイキング」が「650円 (税込み)」で「毎日日替りで30〜40種類の御料理が食べ放題」.加えて,「ソフトドリンクも飲み放題」.また,「小学生未満は無料」という.本記事でも紹介されているように,「地産地消をモットー」とした「県産食材を主に使用」.特に,「サラダコーナー」の「野菜は「契約農家直送」」*2
2008年12月7日付の本備忘録において項目立てを試みた本備忘録の妄想的・断続的観察課題のひとつ,「庁舎管理の行政学」の観点からは「第3章:役所食堂の行政学」に位置づけられる取組.本備忘録での観察,そして,実際に利用させて頂く度に感じる,そこで並ぶ品々の価格が安価であることへの謎.本記事からは,同県庁内食堂の仕入れにおいて,「その時その時採れた野菜を採れた分すべて仕入れる契約」によってその価格を保っていることが分かる.なるほど.ひとり同県職員のみならず,同県庁舎,そして食堂を「行政財産」として利活用することで,「市民や観光客も多く立ち寄れる場所」*3とすることへの潜在性も感じなくはない.大分県庁は未踏のため,ぜひ訪れたい.

*1:大分県HP(大分県庁舎のご案内)「大分県庁舎新館 館内のご案内

*2:うを清HP(レストランぶんご

*3:稲継裕昭・山田賢一『行政ビジネス』(東洋経済新報社,2011年)67頁

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