千円前後の低価格で散髪できる理容店や美容室が、山梨県内で増えている。洗髪をしないで、カットに特化したサービスを提供することで価格を抑えているのが特徴で、消費者の節約志向が高まる中、人気を集めている。低価格店の2倍以上の料金が主流の組合加盟店は、危機感を強めていて、一部の低価格店に洗髪設備がない点について「衛生面で問題がある」という声も出ている。理容店や美容室でつくる組合は、県に対し、洗髪設備を義務化する条例を求めた請願を検討している。
 甲府市内にある低価格理容店。料金は990円からで、15〜20分ほどでカットが終わる。低価格が受け、子どもやサラリーマン、高齢者など幅広い世代が次々来店する。常連客の一人、同市宝1丁目の女性(80)は「年金生活なので、値段が安いことが一番。シャンプーは自分でできるのでカットだけで十分」と話す。カット代が1500円前後(洗髪は別料金)という低価格を売りに、甲府市昭和町など県内に理容店・美容室「プラージュ」を計12店舗展開する阪南理美容大阪府)は、「スタッフを多く配置し、お客さんを待たせないで対応している」と説明。回転率を高めて売り上げを伸ばす手法で業績を伸ばし、年間50〜60店舗のペースで全国各地に新規出店しているという。
 県理容生活衛生同業組合によると、加盟店舗の平均カット料金は約3500円で、低価格店の2倍以上。同組合の斉藤信善理事は「価格で勝負するのは不可能。技術や接客の質を高めていくしかない」と、講習会を通じて理容師のレベルアップを図るとともに、各店に接客サービスの充実を求めている。現在加盟しているのは約540店舗で5年前に比べて100店舗ほど減少。ほとんどが廃業したとみられ価格競争の激化が背景にあるという。
 全国では、理・美容店の組合が、行政に洗髪設備設置の義務化を条例化するよう求める動きがある。請願が提出された長野県や広島県などは既に条例を施行していて、福島県も7月から条例化する予定。同様の条例がない山梨県に対し、県理容生活衛生同業組合と県美容業生活衛生同業組合は、「ほかの都道府県組合の対応を見ている状況だが、衛生的に考えて洗髪設備は必要」(両組合)として、同様の請願を提出する方向で検討を始めている。これに対し、洗髪設備がない低価格の理容店を10店舗以上展開する会社の幹部は「タオルもはさみもお客さんごとに交換するなど、衛生面には気を使っている。理・美容店組合の動きは低価格店への圧力としか思えない」と反発している。

同記事では,山梨県における理容店・美容店の運営状況とカット専門の「低価格店」の増加傾向について紹介.同記事では,後者の増加傾向に対して,「衛生面」の観点から,同県の理容生活衛生同業組合から「洗髪整備を義務化する条例を求めた請願を検討」されているとのこと.
同記事でも紹介されている,福島県における整備義務化に関する条例改正については,同県HPを参照*1.同改正の趣旨は,「カット専門店では取り立てて洗髪をしなくても,衛生面あるいは作業面でも支障がないと判断されるような客を想定した上での画一化された作業行程が基本」となっているとその見立て,そのため「客の中には必ずしも想定内の頭髪状態の客ばかりとは限らず,長期間洗髪を行っていないために毛髪や頭皮の汚れが目立つ客や,整髪料で髪型を固めているために適切な理容作業を行うことができない客などに対しては,状況に応じて洗髪作業を行うことも必要になってくる」との状況に直面する虞があるとする.その一方で,これらカット専門店では「これらの客を店側では断ることはできない」として,更に「サービス業である以上,これらの客にも対応していくことが求められます」と,同県における,同種の利用者へのカット専門店の対応方針の考え方が示されている.そして,「理容師法,美容師法の目的でもある公衆衛生の向上に資するという役割を担う理容師,美容師の立場とすれば,客の毛髪や頭皮の状態を観察し,必要があれば洗髪を客に勧めることも重要な使命であると解され」るとの解釈から,「理容師,美容師が採るべき衛生措置の一環として,洗髪設備の必要性を条例で位置付けることが必要」として,福島県理容師法施行条例及び福島県美容師法施行条例の改正案を検討.同案については,2008年12月10日から2009年1月9日までに,パブリックコメントを実施.その結果は,同改正事項については「御意見はありませんでした」*2との結果もあり,その後,改正案が「平成21年2月県議会において可決」され,同記事にもあるように「平成21年7月1日より施行」の予定にある.
一方で,群馬県では,「平成19年12月18日に,群馬県理容生活衛生同業組合理事長及び群馬県美容業生活衛生同業組合理事長から,群馬県理容師法施行条例及び群馬県美容師法施行条例に理容所・美容所における洗髪設備の設置を義務づけるよう条例改正する旨の請願」があり,「平成20年3月19日に採択」.これを受けて,同県では,「他県の条例化等の状況等の調査」とともに「理容所・美容所における洗髪設備設置義務化の必要性について検討することを目的」とする「群馬県理容所美容所洗髪設備検討委員会」を設置.2009年5月20日に公開された,同委員会の報告書内を拝見すると*3,「県の実施した衛生実態調査結果からは,洗髪設備を有する施設と洗髪設備の無い施設で器具の衛生状態に有意な差が無かったこと」,「理容業・美容業を行う場合,講ずべき衛生上の措置が法令により定められており,理容所・美容所での感染症伝搬の防止等についての衛生的な担保はなされていること」,「昔と異なり,現在は衛生状態は向上しており,必ず理・美容所で洗髪する必要があるとは考えにくいこと.また,理・美容所において洗髪することが法律上義務づけられていないこと」,更に,「洗髪設備設置の義務化を条例で義務づけている14自治体に,衛生面が改善されたというデータがあるかどうか問いあわせたところ,そのようなデータは無いと言う回答であった.また,近年条例改正を行った自治体における洗髪設備の設置義務は新規店舗のみに適用され,条例施行時に洗髪設備の無い既存店には,経過措置によりその規制が及んでいないこと」と調査審議された結果を踏まえて,「洗髪設備の設置を義務化するための合理的な理由は見いだせず,現在のところ,緊急を要して,洗髪設備設置を義務化(条例化)する必要はないとの意見が大半であった」との見解が示されている.
「分権改革の趣旨を踏まえた解釈論」*4や,同改正に至る際の「判断の基礎となった立法事実」(91頁)が各自治体によって異なるためなのか,その立法法務の対応は,各府県で義務付け型(いわば,事前規制型)と義務付けを設けることのない形態とに分離傾向.同県はどのような対応がされるのだろうか.要観察.前者のように,条例による整備義務付けを通じて,衛生に関するリスク回避を自治体の責務として整備することが適当か,又は,低価格であることに同種のリスクが包摂されており,リスクに直面する蓋然性を含めて利用者側にその判断の責務を帰着することが適当なのか,まさに,その「政策」としての判断.ただ,そのリスクへの懸念からすれば,洗髪整備整備の義務付けよりも,理容所・美容所,そして,カット専門店の何れを問わず,理容師法及び美容師法第13条にいう「立入検査」(まさに「ポリス・パトロール型監視(police patrol oversight)」*5)を徹底して実施し,衛生面を確保できない場合には,同法第14条に基づく閉鎖命令を実施することが,むしろ適当とも思わなくもないが,やはりその検査コストからは困難なのだろうか.