犬を殺すのは誰か ペット流通の闇 (朝日文庫)

犬を殺すのは誰か ペット流通の闇 (朝日文庫)

本日は,同書.2010年に刊行された単行本『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』(読み落していました)に改正動物愛護法の整理の経緯を追加された文庫版.そのため文庫版は第5章で描かれる動物愛護法改正をめぐる政治と業界が絡み合う過程は読み応えがある.一方,第4章までは,下名個人の関心からも自治体行政の観点から得られる事実情報も多い.
「いまだ日本は犬にとって地獄」(133頁).2011年度でも79,674匹が自治体に引き取られ,そのうち44,783匹は殺処分されていると聞けば,そう思わざるを得ない.ではなぜ,犬が殺処分されのか.本書では,犬の売り方と買い方にその原因を見る.つまり,「安易な気持ち」で売買された結果「安易な理由で犬を捨てる」「構造」(88頁)がある,という.誰も犬が殺処分されることを好ましいとは思わない.しかし,殺処分もある.犬の殺処分をめぐる社会的ディレンマが,その「構造」にあるのだろう.
一方,このような構造からすると,「捨て犬を生み出す「蛇口」だとしたら,捨て犬を引き取り,殺処分をしていく地方自治体はその「受け皿」」(88頁)になる.受け皿となる自治体は「飼い主による犬の所有権放棄」となる「犬の引取申請書」(18頁)を提出へは受動的であり,結果,能動的に殺処分せざるを得ない状況にある.だが,その姿勢は画一ではない.むしろ「自治体による動物愛護への温度差」(99頁)もある.例えば,本書では殺処分機を設置しない横浜市(105頁),2012年11月8日付の本備忘録でも記録した「殺処分ゼロ」を目指す熊本市(107頁),徹底した情報公開を進める愛媛県(113頁)を紹介する.受け皿であり受動的な「動物愛護行政は」能動的に「変わり始めている」(116頁)のだろう.
しかし,行政が「変わり始めても」,やはり,育て手側,売り手側,買い手側の行動が変わらなければ,不必要な殺処分を抑制することはできない.社会的ディレンマゆえの悩ましさでもある.本書では,2012年6月29日付の本備忘録でも記録した,泉佐野市が検討された「犬税」(130頁)に一つの解決方策とみる.次の指摘のうち後段の政策目的を実現するためには,果たしてどのような税をどのような賦課徴収方法として設計することが適切かと考えさせられ,なるほどと思いました.

年間5万匹前後の犬が自治体によって殺処分された社会問題化するなかで,犬税を動物愛護のために使う目的税とすれば,捨てられた犬たちの里親探しなどを推進できるかもしれない.犬税の導入が多頭飼いや安易な犬の購入抑制力になり,殺処分数削減に一定の効果をあげる可能性も高い.」(158頁)