世帯主が国民健康保険の保険料を滞納したことで「無保険」状態になった子どもが約3万3千人いる問題で、全国986自治体が滞納しても子どものいる世帯には保険証の返還を求めていないことが2日わかった。全自治体の約55%で、このほか、子どもだけに保険証を交付するところもあった。
 厚生労働省自治体に対して、特別な事情がない限り、国保の保険料を1年以上滞納した世帯には保険証を返還させ、代わりに資格証明書を出すよう求めている。 山井和則衆院議員(民主)の質問主意書に対する政府の答弁書などによると、厚生労働省が調査した全国1798市区町村のうち、(1)保険証の返還を求めない自治体が551(2)子どものいる世帯には返還を求めない自治体が435あった。新潟県長岡市は、子どもだけに保険証を交付していた。 厚労省は、子どもだけに保険証を発行するのは「世帯単位の原則が崩れ、法律違反の疑いがある」(国民健康保険課)と指摘している。 ただ、こうした対応に自治体から不満があがっている。泉田裕彦新潟県知事と古川康佐賀県知事が2日、厚労省の江利川毅事務次官に、子どもだけの保険証発行ができるよう法改正を求めた。(南彰)

同記事では,全国の市区町村のうち約5割は,いわゆる「無保険の子ども」に対して保険証の返還を求めていないことが明らかになったことを紹介.
同記事の根拠は,国会法第74条第2項に基づく質問主意書.「議院内閣制諸国では大いに利用されている」*1一方で,我が国ではその利用は低調とはされてきた*2.利用される場合,質問主意書には,やや非政権党的視線からの内容も一部にはあるにはあり,これを受ける内閣(各府省)としては同法第75条に基づき「7日以内に答弁」のための短期的対応を求められることへの苦労が偲ばれはするものの,折々の自治体行政を観察する上では参考となる情報も多い.同記事に関しては,現在迄のところ,衆議院HP*3には掲載されてはいない模様.残念.掲載後,要確認.
11月27日付の本備忘録でもみたいわゆる「無保険の子ども」問題.資格証明書のための審査・交付,短期被保険者証の交付という制度選択よりも,現行継続とい制度選択を行うことは,これら業務(審査)リスクの回避という観点*4,また,第一線職員論にいう「偏見の偏在性」として,「対象者のための最良の利益あるいは最大多数のための最大のためと主張される公式あるいは非公式の政策」としての「対象者に対する差別待遇」*5の観点からも,ある意味合理的な選択ともいえなくもないか.同記事の内容は行政現象として,考えてみると興味深い.
同記事でも紹介された「世帯単位の原則の崩れ」との懸念とを対比すれば,「日本の公共政策には,家族単位モデルから個人単位モデルへの移行の兆候が見られる」*6と観察された行政現象の一つが,「無保険の子ども」という「逸脱事例」(deviant case)を通じて,実態面ではその兆候が,今日ではより明らかになりつつあるのだろうか.要観察.

*1:大石眞『議会法』(有斐閣,2001年)117頁

議会法 (有斐閣アルマ)

議会法 (有斐閣アルマ)

*2:大山礼子『国会学入門』(三省堂,1997年)172頁

国会学入門

国会学入門

*3:衆議院HP「第170回国会 質問の一覧

*4:新川敏光, ジュリアーノ ボノーリ『年金改革の比較政治学』(ミネルヴァ書房,2004年)303頁

年金改革の比較政治学―経路依存性と非難回避 (ガヴァナンス叢書)

年金改革の比較政治学―経路依存性と非難回避 (ガヴァナンス叢書)

*5:マイケル・リプスキー『行政サービスのディレンマ』(木鐸社,1986年)161〜162頁

行政サービスのディレンマ―ストリート・レベルの官僚制

行政サービスのディレンマ―ストリート・レベルの官僚制

*6:横山文野『戦後日本の女性政策』(勁草書房,2002年)402頁

戦後日本の女性政策

戦後日本の女性政策