学識経験者らが公共事業を点検する「県公共事業再評価委員会」は発足10年で314件を審議し、すべて事業主体の方針案を「妥当」と判断した。「追認機関になっていないか」と疑問の声もあるが、委員会は「制度自体に見直し効果がある」と話している。
 再評価制度は、公共事業の効率性や実施過程の透明性向上を図るため、1998年に導入した。委員は10人で任期は2年。法律や建築、農業の専門家を知事が委嘱する。再評価の対象は県、または市町村実施事業で県に再評価の依頼があったもの。開始から10年間経過した時点で継続中や、社会情勢の変化で見直しの必要が生じた事業で実施する。委員会に提案された対応方針案のうち、291件は「そのまま継続」。一方で「見直しの上継続」11件、「見直しの上完了」3件、「休止」7件、「中止」2件と見直しを図った案件もある。
 田中昭彦会長(元和歌山市弁護士会会長)は「追認機関という指摘もあろうが、制度があることで事業主体側は、資料作成などを通じ、客観的に事業を見つめ直す。結果として、委員会が容認できる内容になっている」と話す。県も「委員会で活発な議論があり、容認の場合でも貴重な付帯意見が多い」と効果を強調している。

同記事では,三重県に設けられた「三重県公共事業再評価・事後評価会」における審議結果を紹介.同会の活動については,同県HPを参照*1
12月2日付の本備忘録でも取りあげた,茨城県における公共事業再評価システムにおいても,2007年度までの評価対象265事業のうち「継続」が224とその大半を占める.諮問機関の審議・評価結果が,「継続」が大半になるというほぼ同種の結果が見られることは,考えてみると興味深い.恐らくは,そもそも,公共事業自体の減少という初期条件が影響しているとも考えられる.ただ,その一方で,諮問機関という第三者機関に関する制度がもつ特性からも,その要因を考えてみることもできそうな現象.
例えば,以前から個人的に気になっている諮問機関に関する制度として,委員の再任許可規定がある.同規定と同現象との関係性も推論しうるのではないだろうかとも思う.同県同会の設置根拠である「三重県公共事業評価審査委員会条例」を拝見すると,第4条第3項には「委員は,再任されることができる」とあり再任許可規定が設けられている.この再任許可規定,確かに,委員再任により,審査・評価対象に関する知識・情報が蓄積され,委員審議において「相対性」を確保することも可能になる.更には,委員の「なり手」を自治体側が探索するコストの縮減や,9月4日付の本備忘録でも触れたdriftを抑止するうえでも,諮問機関の同規定があることは最も大きな効果ともいえそう.そのため,同規定は,多くの諮問機関で設けられることを経験的に観察するところではあるものの,諮問機関(特に,審査・評価関連の諮問機関)における同規定の意義を考えてみると,同種の規定を整備する際には,慎重さも必要かとも考えないわけではない.
つまり,諮問機関(特に,審査・評価系の諮問機関)が審査・評価を行った場合,いわゆるゆる「アンカリング効果」(anchoring effect)により,「恣意の一貫性」*2ともされる「選択機構」(choice architecture)が成立し,その後,委員再任により,審査・評価に関する選択構造が「固定化」(lock in)されてしまう蓋然性も低くはないようにも考えられる.もちろん,公共事業自体の減少という初期条件からすれば,委員が刷新された場合であっても,ほぼ同様の結論になることもまた想定される.第三者機関に関する制度については,更に観察と検討ができそうか.

*1:三重県HP(県土整備部公共事業運営室附属機関等 概要・委員)「三重県公共事業再評価・事後評価

*2:ダン・アリエリー『予想どおりに不合理』(早川書房,2008年)54頁

予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」

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