横浜、大阪、名古屋の三市による「大都市制度構想研究会」(座長・伊藤滋早大特命教授)は十八日、「道州制」において市と州の機能を併せ持つ「都市州」制度を創設し、三市に適用すべきだとする提言を発表した。重複行政の全廃で年間千二百億円以上のコスト削減になるほか、都市的産業の成長で国内総生産(GDP)を1・5%、約七兆八千億円押し上げる効果があるとした。三市は今後の地方分権改革論議で国などに働きかけ、実現を目指す。
 提言は「日本をけん引する大都市」と題し、導入が検討されている道州制の下で、一般道州とは独立した都市州の必要性を強調。「まず三市が都市州になるべきだ」とした。都市州は単一市の「単一都市州」と近隣自治体と共に独立する「大都市圏州」の二種を想定。いずれも国と地方双方の行政を効率化し、住民自治やサービスを強化、世界的な都市間競争にも対応し、国の成長に貢献できるとした。また、道州制導入までの過渡期について府県から独立した「新・特別市」の実現も求めた。大都市制度創設による経済効果は、野村総合研究所の試算で二〇二〇年時点のGDPを〇七年比で約1・5%押し上げるとした。
 一方、都市州の財源は、市町村税と道州税を一元化した「大都市税」を新設。ただし、大都市部の税収が全国に行き渡る財政調整の仕組みを設けるべきだとした。都市州内部では、住民自治の強化が必要とし、区の制度などは市民と共に主体的に選択・決定できることが原則としている。
 横浜の中田宏市長は「大都市制度によって大都市が日本の国力を高め、けん引することができる。他地域にも成果を還元できる」と意義を強調。大阪の平松邦夫市長は、京都、神戸、堺市との「大都市圏州」を検討しているとした。研究会は横浜など三市が昨年設置。現行の政令指定都市制度で大都市は権限や税財政の問題から十分な役割を発揮できていないとし、新たな制度を検討してきた。

少し古い記事ではありますが,同記事では,横浜市大阪市名古屋市で設置した「大都市制度構想研究会」の提言がまとめられたことを紹介*12008年8月21日付の本備忘録において取りあげた同研究会の成果.
提言の内容は,横浜市HPを参照*22009年2月1日付の本備忘録でも取りあげた,同市における横浜市大都市制度検討委員会の報告書に比べると,「コミュニケーション的言説」*3(?)としての用途目的からから,「「都市州」の創設」「「都市州」による新たな財政調整システムの構築」「「都市州」の住民自治機能の強化」の3点に提案事項が絞られており,やや骨太な感もある.また,現行都道府県制度下についても,「3市は,府県との重複行政を排し,事実上府県から独立した,府県と同等の権限を持つ,いわゆる「新・特別市」の実現を求めていくべき」として,「この際には,「大都市制度法(仮称)」の制定が必要」(18頁)ともあり,現行都道府県制度下の大都市制度と,道州制度下の大都市制度(「都市州」)の双方について言及しており,後者に比重を置きつつも,前者についても若干言及もする二段構えともいえる内容(構想実現に向けたイメージのなかでは,前者については,「道州制ビジョン懇」提出後,「地方分権一括法」施行前に「反映」(19頁)するともある).
同提案内での注目点は,既に砂原庸介先生によって紹介されているように「大都市部の税収が,道州間の水平的な財政調整を通じて,全国に行き渡る仕組みを構築」(12頁)するという,州間での水平的な財政調整にありそう.ある意味,潔い提案ともいえる.個人的には,3都市のみに適用される「「都市州」制度」(10頁)を提言をしている箇所内にける「水平補完」の記述に注目.同提言内では,「大都市圏では大都市市域を越えた範囲において一定の機能的なまとまりをもつため,「都市州」には,大都市が主に現在の市域をもって単一市で独立する「単一都市州」と,都市圏として機能的なまとまりを形成し,近隣自治体と共に独立する「大都市圏州」とが考えられる」と,また,同種のこれまでの他の提言のように現行区域を前提とした,ひとり「特別市論」を展開することなく,「水平補完」を言及している点.
第29次地方制度調査会における「指定都市,中核市特例市などの地域の中心都市」に対する「現状」を踏まえた,「課題」の認識として,「域内の中心都市としての役割の強化が求められるのではないか」*4とも合致する.ただ,「水平補完」に関しては,「民主的統制という観点からは,最悪な制度」*5とも分析されており,単に「機能的なまとまり」(10頁)で回収しきれない,民主的統制の観点からの問題も避けられない.そのため,民主的統制の問題を緩和するためには「合併」という路線もあるものの,これまでの同種の提案の中では,周辺自治体との関係性からは一足飛びに合併ということについては,余り言及されてこなかったようではある.
しかし,本提言では,「区域の再編(市町村合併)や新たな連携強化等を進めていくことも検討すべき」とあり,周辺自治体との合併による区域拡大について言及している点は興味深い.歴史的に振り返っても,例えば,東京市が,東京都制へと収斂される以前での特別市運動における活動前提としては,区域拡大があったことからすれば,真に「都市州」なるものを実現するには,他の州との権衡からも,現行都市の区域では,やや狭隘であるように思われる.そのため,自ら合併の可能性を提案された同提言は,大きな一歩.同提案をもとに,周辺自治体(例えば,横浜市であれば川崎市大阪市であれば堺市)との間での交渉が進むと興味深い.
同提言では,「地方自治制度は,これまでのように国が詳細まで画一的に設計して一律に適用すべきものではなく,それぞれの自治体が市民とともに地域の特性を反映した柔軟な制度設計を行うべきものである」ともある.また,「横浜,大阪,名古屋の3都市においても,大都市としての共通点はもちろん多いが,特性が異なる部分もある」として,「本報告書においては,道州制下における大都市制度の基本的な部分を提案し,たとえば,単一市で「都市州」となるか「大都市圏州」を構想するか,あるいは,「都市州」の内部構造をどうするかといったことについては,それぞれの地域の特性に応じて決定すべきものとしているところである」(18頁)との考え方が示されている.
上述のように「コミュニケーション的言説」としての骨太感がある提言の理由は,同種の考え方からかとも納得.ただ,各市が同研究会からの同提言を受け取った後,各市が「機関決定」を行い,各市の名前で提言・制度化の運動を行う段階となった時,そして,特に,政令指定都市制度の創設という「停戦合意」(休戦協定?)以降,永らく「図上訓練」であった大都市制度論議が,今後,仮に国レベルでの「空中戦」,そして,各自治体レベルでの「地上戦」へと移行した場合には,同提言がどの程度「調整的言説」へと転化するのかは,興味深いところ.要経過観察.

*1:その他,次の各紙で配信・報道.時事通信社(2009年2月18日付)「「都市州」の創設を=横浜、名古屋、大阪の3市が提言」,産経新聞(2009年2月18日付)「横浜など3大都市が「都市州」構想発表」,日本経済新聞(2009年2月18日付)「横浜・名古屋・大阪の3市、府県から独立求める 制度改革で提言」,毎日新聞(2009年2月19日付)「都市州:3政令市が提言

*2:横浜市HP(都市経営局地方分権・大都市制度:[横浜・大阪・名古屋3市による大都市制度構想研究会)横浜・大阪・名古屋3市による大都市制度構想研究会『日本を牽引する大都市 ―『都市州』創設による構造改革構想―)「新たな大都市制度創設の提案 最終報告』(平成21年2月)

*3:Vivien A. Schmidt,The Futures of European Capitalism,Oxford University Press,2002,230-231.

The Futures of European Capitalism

The Futures of European Capitalism

*4:内閣府HP(第29次地方制度調査会第20回専門小委員会:開催平成21年1月30日)「資料1 基礎自治体のあり方について」3頁

*5:金井利之「広域都市圏での補完行政と自治制度」『都市問題研究』第61巻第1号,平成21年1月号,13頁