自治体と政策 (放送大学大学院教材)

自治体と政策 (放送大学大学院教材)

下名,正直なところ,「地方自治」教科書の良き読み手ではない.「地方自治」関連の教科書が公刊された場合でも,書店等でも余り食指が伸びずレジまで持って行くことは余りなく,購入した場合でも,その時期が著しく遅い.また,結局購入せず,図書館でも斜め読みするに止まることが度々である(本備忘録でも幾度も取り上げています,『ホーンブック 地方自治』は例外です).恐らく,それは「教科書」であることにより,出版上,または,「学」なるものとしての存在として社会的に要請されてしまう,体系的認識・一般化認識により,下名が面白みを感じている「地方自治」「自治体行政」の側面が(何故だか)捨象されてしまうことにあるとも思われる(しつこいようですが,この点からも『ホーンブック 地方自治』は例外です).
本書は,記述は明瞭かつ簡潔であり,理論的思考を背景にもつ歴史的記述と.実務に依拠した理論的記述により説明がされていることで,各章の読みやすさは抜群.特に,各章は,両著者による分担執筆により構成されており,その各章では「得意とする分野の研究領域についても比較的詳しい記述」(3頁)が行われているため,各分野における歴史的背景,研究・理論的背景や動向を踏まえた記述が充実しており,安心して読むことができる.また,各章の随所には,両執筆者による観察分析を踏まえての自治体の「本音」的な認識も紹介されており,各章テーマに対して複眼的な認識の機会をも提供しており,大いに参考になる一冊.
確かに,放送大学における教科書として,広い読者(受講者)を対象とされているため,基本的な制度記述に配慮された章もある.しかし,その記述の中にも,種々唸る記述が埋め込まれており,研究書的教科書として読むこともできる.例えば,「第7章税財政構造と予算管理」では,「個別自治体における歳出の決定」(98頁)が説明されており,その際の認識論な背景としては,国における予算編成の動態である「攻守交代システム」(100−101頁)の認識方法に依拠されて説明されている.恐らく(といっても,上記の如く「地方自治」教科書を隈無く拝読しているわけではありませんが(すみません)),同認識方法を明瞭にしたうえで自治体内の予算編成過程を説明された教科書はそれ程ないのではないだろうか.また,一般的に「広域行政」等のテーマとして自治制度の概説等に収斂されがちな,自治体における水平的な連携に関しても,「自治体のネットワーク」として章を個別に設けて(第13章),広域行政のみならず,国内外での政治面,政策開発面等における「水平的なネットワーク」の意義を明確にしていることも同書の特徴ともいえる.
放送教材では「自治体現場での担当者のインタビュー」や「それぞれの分野での代表的な研究者のコメント」(3頁)も放映されるともあり,こちらも興味深そう.来年度の講義ノートづくりにおいて参照としたい一冊.