市の業務妨害が目的とみられる不適正な行政文書の大量開示請求を防ぐため、横浜市は情報公開条例を改正し、条文の中に「開示請求権の濫用禁止」を盛り込む方針を決めた。市は「不適正な請求だけが対象」と説明するが、市民オンブズマン側からは「行政の都合よく運用されかねない」という批判的な意見も出ている。
(佐藤善一)
 1211件の文書の開示請求をしながら取りに来ない▽区役所で半月の間に119回の請求を繰り返す・・。市民情報室が例に挙げる「不適正な請求」の例だ。市民情報室によると、2008年度、市の窓口で手続きされた年間の行政文書の開示請求数は3万1733件。請求書数でみると、2449件に上る。年々増加傾向で、09年度も前年を上回るペースという。
 今回の条例改正は、昨年12月の市情報公開・個人情報保護審査会の答申を踏まえた。答申には「開示請求権といえども無制限に認められるものではなく、開示請求者は権利を濫用してはならないと条例上明確にすべきだ」などの意見が盛り込まれた。
 一方、市側の運営を注視するため、答申には「権利濫用を理由に非開示決定をした場合は、(市は)遅滞なく審査会に報告すべきである」と一定の歯止めも加えられた。市は2月定例会に改正案を提出し、10年度中に施行をめざす。合わせて運用の手引き(基準)も見直し、実際にどのようなケースが不適正な請求に当たるのか、具体的に例示する方針。「部局の文書すべて」などが想定されているが、基準については慎重に検討していくという。市民情報室の丸畠聡担当課長は「請求は『不正をただしたい』などという目的を待った人ばかりではない。業務妨害が目的としか思えない人も多い。市民の知る権利を制限するのが目的ではない。市側の『濫用』を防ぐためのチェック機能も整えたい」と話している。
 一方、情報公開にかかわってきたよこはま市民オンブズマン代表幹事の森田明弁護士は「拒否は少ないにしても、条文化により、『拒否できるんだ』という意識が職員に生じ、目に見えない抑制が働くことが心配。当局や審査会側の意見だけでなく、請求者側の話も幅広く聞き、慎重に議論してほしい」と話した。開示の制限については、県が02年施行の情報公開条例の運用基準の中に、不適正な大量請求があった場合の取り扱いを明記した。横須賀、伊勢原、座間の各市も、利用者責務の厳格化や濫用禁止を条例に盛り込んでいる。

本記事では,横浜市における情報公開条例の改正方針を紹介.2010年1月11日付の神奈川新聞でも報道された,同市に対する開示請求権への「濫用禁止」に対する規制整備の方針.
同市における情報公開請求の状況に関しては,同市HPを参照*1.2007年度では,「請求文書件数が31,733件」,「開示請求書数は2,449件」であり,前年度と比べた場合,「請求文書件数は5,312件減少.開示請求書数は582件増」であり,「行政文書開示等の処理状況」としては「開示率は93.0パーセント」とその割合は高い.一方で,「不服申立ての状況」は,同年には「615件の不服申立て」があり.これに「前年度から継続」の「33件」を加えると「合計648件」*2であったという.
本記事でも紹介されている各自治体のように,「情報公開請求権を濫用してならない旨を条例に明記するとともに,請求対象が不特定の大量請求で補正にも応じない場合」に対して,「請求権の濫用に当たる場合に何らかの形で具体的に例示する取組」*3もある.例えば,同市への「分野別の請求状況」においても,建築計画概要書,各種工事の許可申請書」等の「建築」分野が「4,183件」*4が最も多いこともあるように,これらの請求に対して,「営利目的の対象請求」であるとして「手数料条例を改正して建築計画概要書の写しの交付制度を定め,情報公開条例の対象から外す対応をとる自治体が出てきている」という.ただし,高松地裁では「営利事業の一環として大量に行われていることから権利濫用に当たるという行政側の主張を認めなかった」*5ともある.「権利濫用に当たるか否かを最終的に判断するのは裁判所」であり,横浜地裁東京地裁の2つの判例への分析結果からは,「特に,請求者側の不当な意図等が問題となるだけではなく,行政側にも,効率的な文書管理体制を整備したり,請求者に対して粘り強く説明や補正要請をする努力が求められることを示唆している点」*6があるともされる.
「99.5%」*7が整備されている情報公開条例.しかし,整備とともに,その運用上顕在化されていく,「公開事務にかかるコスト」*8からの規制整備の必要性と,方や,その整備による「正統な請求を抑制してしまう恐れ」*9という蓋然性との間から考えた場合での運用実態は,悩ましい.

*1:横浜市HP(市民活力推進局市民情報室横浜市の情報公開制度の実施状況)「平成20年度「横浜市の情報公開と個人情報保護」について

*2:前掲注1・横浜市(平成20年度「横浜市の情報公開と個人情報保護」について)1頁,2頁,3頁

*3:中原茂樹「説明責任を果たすための文書管理」村松岐夫・稲継裕昭・財団法人日本都市センター編著『分権改革は都市行政機構を変えたか』(第一法規,2009年)200頁

分権改革は都市行政機構を変えたか

分権改革は都市行政機構を変えたか

*4:前掲注1・横浜市(平成20年度「横浜市の情報公開と個人情報保護」について)2頁

*5:前掲注3・中原茂樹2009年:202頁

*6:前掲注3・中原茂樹2009年:200頁

*7:総務省HP(政策行政組織・行政運営情報公開制度)「情報公開条例(要綱等)の制定状況調査の結果平成20年8月1日

*8:前掲注3・中原茂樹2009年:202頁

*9:前掲注3・中原茂樹2009年:203頁