世話人」などと呼ばれる非常勤特別職を任命し、広報紙配布など行政の業務をさせる昔ながらの制度を廃止する自治体が徐々に増えている。世話人自治会長が兼任することが多いため、自治会が行政の下請けのように見られ、住民自治の障害になっているとの判断からだ。県内では昨年3月、春日市などが世話人制度を廃止した。同市の取り組みを検証すると、住民自治の鍵が「地域のことは地域で決める」過程の中にあることが、あらためて見えてくる。
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 春日市は人口約10万9500人、35自治会がある。世話人制度は1974年に導入され、自治会長がほとんど兼務した。同市は自治会からの意見聴取や協議などにじっくり3年間をかけた後、同制度を廃止した。
 同市地域づくり課によると、世話人廃止に併せて、それまで自治会長の個人口座に振り込んでいた世話人報酬を自治会への交付に変更。祭りや広報など使途が厳密だった五つの補助金は一本化した。その上で報酬の再配分や補助金の振り分け、それに伴う規約改正などについて各自治会に任せた。報酬と補助金を合わせて「まちづくり交付金」とし、その総額は以前に比べて減らないよう全額保証した。
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 「議論のプロセスそのものが重要だった」。天神山自治会の北田織(のぼる)会長(60)は振り返る。同自治会は各種団体代表や各ブロックごとの住民代表らで構成する規約改正委員会を設け、半年以上かけて徹底議論した。その結果、同自治会には防犯・防災、環境、福祉、子どもなど8部を新設。各部が事業計画を練り、毎月1回、自治会の役員と部会の正副部長が参加する運営委員会で話し合う。報酬は役員だけでなく、正副部長にも支給するようにした。
 防犯・防災部は危険個所マップを作成し、年数回だった住民によるパトロールを毎月2回に増やした。今夏は中学校の保護者とも合同巡回する。文化部は春日南中学校と直接交渉。3年生たちに8月上旬の天神山夏まつりに参加してもらい、企画の一部や準備、まつり当日の設営や運営、接待などを支えてもらった。「部長や副部長の意識が高まり、さまざまなアイデアが次々に生まれている」。北田会長は改革の方向に自信を見せる。
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 「報酬の再配分の議論をきっかけに、自治会活動とはなんぞやということを住民自身が真剣に考え始めた」と言うのは、同市ちくし台自治会の規約改正に参加した向江泰さん(77)。同自治会は会長1人に集中していた業務を事業担当と会計担当の2副会長を新設し、報酬とともに分割。会長の2年任期も決めた。向江さんは「会長1人に権限が集中すると、独善的になる。3人合議制にしたことで負担が分散され、だれでも役員になれる態勢が整った。徹底議論を通して実現したことが重要だ」と話す。
 春日市自治会の激変と混乱を避けるため、従来の報酬相当額は報酬にしか使えないように限定し、事業費に回したり、自治会費を補ったりできないようにしながらも、報酬の再配分は各自治会に委ねることにした。同市地域づくり課の喜島克三郎課長は「自治会が自己決定能力を伸ばす手助けをするのも行政の重要な役割。世話人廃止を契機に、それが育っていると期待している」と話す。同市は早ければ来年度にも、まちづくり交付金から報酬と事業費の縛りを外し、自治会に自由に使途を決めてもらうことを検討している。そのときこそ、同市の住民たちの自治力が問われる。

本記事では,春日市における「世話人制度」の廃止後の現状について紹介.同制度の廃止に関しては,同市HPを参照*1
2009年4月に同市で行われた,「自治会組織再編」と「コミュニティ制度改革」と称される取組は,「春日市自治会連合会の設立」,「補助金の一本化(「まちづくり交付金」として各自治会に交付)」,「地区世話人制度の廃止と報酬などの補助金化」,「自治会と公民館の二層構造の解消」*2の4項目が実施.2009年4月22日付の本備忘録では,福岡市における世話人制度の廃止の取組.本記事を拝読すると,「昔ながらの制度を廃止する自治体が徐々に増えている」と報道されており,「政策波及(policy diffusion)」*3も観察できるのだろうか.興味深い.
また,本記事では,これらの取組の内,「地区世話人制度の廃止」とともに,「まちづくり交付金」に関しても紹介.「まちづくり交付金」は,2009年度以前は,同市の「地区づくり課」による「地区祭運営補助金」「広報事務取扱補助金」,「社会教育課」による「公民館運営補助金」,「スポーツ課」による「社会体育振興補助金」,「高齢課」による「老人憩の部屋運営補助金」が各自治会へ交付.また,「地区づくり課」からは,「地区世話人報酬」が「地区世話人」に支給,「生涯学習推進委員」へは「生涯学習推進委員報酬」が「社会教育課」から,「環境推進員」へは「環境推進員報酬」が「環境推進員報酬」から支給と,8種の補助金・報酬が個別に地域に交付されていたものを,「地域づくり課」が一元的に,各「自治会」に対して交付する取組.「特定補助金の中で地方の裁量を高める規制緩和を講じる選択肢」*4の一つとも整理ができそうな同「交付金」の内容としては,「管理用」として「自治会役員などの報酬や手当に充てられるもの」,「事業用」として「夏祭りなど,自治会が行う事業に使われるもの」*5とそれぞれ交付されている.交付金化に伴う,「政策選好」における「選別的効果」*6の変容は,個別自治会毎で観察ができるのだろうか,これまた,興味深い.

*1:春日市HP(生活関連情報/デジタル市報平成21年分)「市報かすが 平成21年6月15日号」2〜5頁

*2:前掲注1・春日市(平成21年6月15日号)3頁

*3:伊藤修一郎『自治体政策過程の動態』(慶応義塾大学出版会,2002年)37頁

自治体政策過程の動態―政策イノベーションと波及

自治体政策過程の動態―政策イノベーションと波及

*4:佐藤主光『地方財政論入門』(新世社,2009年)290頁

地方財政論入門 (経済学叢書Introductory)

地方財政論入門 (経済学叢書Introductory)

*5:前掲注1・春日市(平成21年6月15日号)3頁

*6:金井利之「国・自治体間関係における法制と財政」『ジュリスト』No.1387,2009.10.15,161頁

Jurist(ジュリスト)2009年 10/15号 [雑誌]

Jurist(ジュリスト)2009年 10/15号 [雑誌]