県は来年度の予算編成から、財政課長▽総務部長▽知事という従来の3段階の要求・査定を改め、重点政策については知事査定1本に改める。「ペーパーより議論へ」を掲げ、予算編成のスタイルを抜本的に変更。重点政策は時間をかけて練り上げたい意向だ。【宇多川はるか】
 予算編成は従来、10月ごろから各課が要求書を作成。年内に財政課長、年明けに総務部長と知事の査定があった。ほぼどこの役所でも共通の手法だが、編成作業の長期化につながり、各課から「要求書の作成と査定に忙しく現場の声が反映されにくい」「県政の方向性が分からず新規施策で何をすべきか分からない」といった声が上がっていた。
 来年度の予算編成からは、10月に部局横断で構成する「政策戦略会議」で翌年度の方向性や方針を協議。外部有識者らを含む「県版事業仕分け」の結果も踏まえ、例えば電気自動車関連産業の育成▽高速道路開通をいかした観光誘客といった大まかな方針を知事と決める。その後、重点政策については、年内は県民や関係団体など現場の意見を聞いて政策を練る時間にあて、年明けに要求書を作成。2月に知事査定を行う。継続事業なども総務部長査定をやめて省力化する。平井伸治知事は「伝統的な予算編成作業をスリム化し、鳥取から予算編成を革新的に改めていきたい」と話している。

本記事では,鳥取県における予算編成の「スタイル」変更の方針を紹介.同取組に関しては,同県に設置された政策戦略会議における,平成22年度第1回の配布資料を参照*1
「現場の声が聞き取れてない」,「県政の方向性がわからず新規施策で何をすべきかわからない」,「組織の中で施策を十分に練る時間がない」,「有力者絡みなど困難な事業は必要性にかかわらず要求せざるを得ない」との「現状と課題」*2認識に基づき,「“省力型査定”制度の導入」を提案されている.
具体的には,「段階型要求・査定を廃止」され「予算編成作業を短期集中化」を図ること,「新規・戦略的事業(知事要求)について,組織内での十分な議論・検討期間を確保」*3することを目的にされ,前者に関しては,「要求のメルクマール」を「知事聞取対象」の「政策戦略事業(新A事業)」と「財政課長聞取対象」の「一般事業(新B事業)」の2区分設けて,「各部局等」はこれらのメルクマールに基づき「要求」し,「要求・査定」を行われることになる.ただし,これらのメルクマールで「どちらで要求すべきか判断を迷うもの」に関しては「前捌き*4の手続を経ることになる,という.「政策戦略事業」は「知事が直接聞取」,「一般事業」は「財政課長が聞取を実施」する,という.あわせて,従来配置されていた「総務部長要求」に関しては「廃止」となり,「財政部(局)統制」の頑強化の傾向性の一つとも整理できそうか,興味深い.要求時においていずれのメルクマールに属する要求であるかは「各部局等」に委ねられることになり,「各部局等」の判断領域の幅が広い様子も窺える.一方で,その判断領域拡大により,その判断領域の限定化が図られ(いわば,「判断領域拡大の隘路化」),結果的には,「前捌き」手続の混雑化への蓋然性も想定さなくもなさそうか.要確認.
また,後者に関しては,「要求書締切が1月上旬」に置くことで,「県政の方向性や国の動向を踏まえた上で,組織内での十分な練り上げが可能」となり,「新設する「政策戦略会議」での議論や統轄監の横串機能」を通じて,「翌年度の戦略的課題について新規施策立案の基盤を醸成」し「各部局等またぎ案件などでの各部局等間連携の強化」を図る,とある.
自治体の予算編成」が「準備段階」「査定段階」「審議段階」の「三段階」*5の区分認識方法に拠るとすれば,同県の同取組は,「準備段階」「査定段階」という段階の縮減化を図られ,「予算の最初の段階で支出」する部門を拘束する財政上の目標やルールを設定する仕組みを定めて財政規律を確立する」とされる「契約アプローチ」*6に基づく取組とも整理ができそう.「トップダウンで予算にメリハリをつけ」*7,財政部門による「個別査定」*8が,両々相俟った予算編成が進められることになるか,来年度の同県予算編成の取組は,要経過観察.

*1:鳥取県HP(県政情報県政基本情報政策情報次世代改革推進本部政策戦略会議)「資料1「政策主導型」予算編成に向けて〜政策戦略会議と予算作業の省力化〜」(平成22年9月財政課・県政推進予算要求作業に忙しく)

*2:前掲注1・鳥取県(資料1「政策主導型」予算編成に向けて)2頁

*3:前掲注1・鳥取県(資料1「政策主導型」予算編成に向けて)4頁

*4:前掲注1・鳥取県(資料1「政策主導型」予算編成に向けて)6頁

*5:吉田博・小島卓弥『自治体の予算要求 考え方・つくり方』(学陽書房,2009年)93頁

自治体の予算要求 考え方・つくり方

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*6:田中秀明「財政ルール・目標と予算マネジメントの改革」青木昌彦・鶴光太郎『日本の財政改革』(東洋経済新報社,2004年)349頁

日本の財政改革 (経済政策分析シリーズ)

日本の財政改革 (経済政策分析シリーズ)

*7:上川龍之進『小泉改革政治学』(東洋経済新報社,2010年)154頁

小泉改革の政治学

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*8:是傾注7・上川龍之進2010年:156頁