東京消防庁が、スプリンクラーの未設置など消防法に違反する状態が発覚した建築物について、是正命令を出す前でも、ビル名や違反内容をインターネット上で公表する制度を創設する方針を固めたことが20日、同庁への取材で分かった。
 21日からの9月都議会に条例の改正案を提案し、来年度からの実施を目指す。是正命令前の公表は全国初の制度という。昨年11月に東京都杉並区の雑居ビルにある居酒屋で16人が死傷した火災が契機となっており、同庁は「より早い段階で違反情報を伝えることで利用者への注意喚起が可能になる」としている。同庁によると、現行制度では、立ち入り検査などで違反が確認された事例の公表は、是正命令を出した後と定められている。命令までに数カ月かかるのが現状で、利用者への周知が大幅に遅れるという課題があった。

本記事では,東京都の消防庁において,是正命令以前に違反内容を公表する方針にあることを紹介.
「公表すること自体が目的ではなく」*1,本記事では,是正命令を提示する以前に,「行政上の誘導」*2が,自己規律的に実施することが目的であるとも解される公表制度.是正命令を経た後の公表への蓋然性よりも,違法確認後の即時の公表の蓋然性という「心理的要方策」により,違法行為の是正に向けた「行動変容」*3より高い違法と確認された後に即時に公表されることで,その「誘因政策」*4としては,有効と想定されたとも解することができそうな同取組.
検査主体と被検査主体間という長期的取引関係に基づくゆえの「「いい関係」をつくることが得策」*5との認識からの,「違反に対して行政指導が重ねられる」*6,「行政処分回避志向」*7から,即時の公表への虞を内包した仕組みにより,違反者に対する是正行動に向けた「その気」*8を発揮させる志向へと変容しつつあるのだろうか.実際の公表状況については,要確認.

*1:鈴木潔『強制する法務・争う法務』(第一法規,2009年)158頁

行政上の義務履行確保と訴訟法務「強制する法務・争う法務」

行政上の義務履行確保と訴訟法務「強制する法務・争う法務」

*2:中原茂樹「行政上の誘導」磯部力・小早川光郎・芝池義一『行政法の新構想Ⅱ』(有斐閣,2008年)203頁

行政法の新構想〈2〉行政作用・行政手続・行政情報法

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*3:藤井聡社会的ジレンマの処方箋』(ナカニシヤ出版,2003年)36頁

社会的ジレンマの処方箋―都市・交通・環境問題のための心理学

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*4:H.A.サイモン,V.A.トンプソン, D.W.スミスバーグ『組織と管理の基礎理論』(ダイヤモンド社,1977年)429頁

組織と管理の基礎理論 (1977年)

組織と管理の基礎理論 (1977年)

*5:北村喜宣『行政執行過程と自治体』(日本評論社,1997年)202頁

行政執行過程と自治体

行政執行過程と自治体

*6:前掲注5・北村喜宣1997年:190頁

*7:前掲注5・北村喜宣1997年:198頁

*8:前掲注5・北村喜宣1997年:214頁