兵庫県は23日、他人が吸うたばこの煙にさらされる受動喫煙防止対策について検討している有識者らの委員会で、公共的な施設のほか、旅館・ホテル、飲食店など民間施設にも禁煙を条例で義務付ける素案を示した。違反した施設管理者らに対する罰則規定も盛り込む内容で、同委員会の協議などを経て、本年度中の条例制定を目指す。
 県では、2004年に受動喫煙防止対策指針を策定し啓発してきたが、その後も飲食店や宿泊施設などの禁煙・分煙対策が不十分として、昨年6月に有識者や業界団体の代表らの委員会を設置。実効性のある方策を検討してきた。素案によると、禁煙を義務付ける「公共性の高い施設」には、官公庁や学校、病院、金融機関、百貨店、福祉施設などを設定。旅館・ホテルや飲食店、カラオケボックスなども義務化の対象だが、暫定措置として喫煙室を設けるなどの分煙を容認。客席面積75平方メートル以下の小規模飲食店は禁煙時間帯を設けるといった対応も認めるという。気密性の高い宿泊施設の客室や、妊婦や未成年者の立ち入りが想定されない小規模スナックやバーは努力義務にとどめる。
 神奈川県が昨年4月、同様の条例を全国で初めて施行したが、客席面積100平方メートル以下の小規模飲食店は努力義務などとしており、兵庫県の素案はより厳しい内容となっている。これに対し、飲食業や旅館・ホテル業を代表する委員は「経営に悪影響を与え、軽々な条例化は死活問題」「分煙のための施設整備には助成が必要」などと反対を表明。県商工会議所連合会も、民間分野への規制拡大に反対する意見書を提出している。県は、委員会の最終報告書を受けて条例の骨子案をまとめ、早ければ年内にも県議会に提案したい考え。条例の施行までに半年から1年の周知期間を設ける方針。
 2003年施行の健康増進法受動喫煙防止を努力義務としているが、厚生労働省は昨年2月、公共空間での原則全面禁煙を求める通知を都道府県に出している。(井関 徹)

本記事では,兵庫県における受動喫煙防止対策の検討状況に関して紹介.検討されている委員会は,同県に設置された「兵庫県受動喫煙防止対策検討委員会」*1.同委員会にて審議されている報告書案に関しては,2011年5月23日に開催された第5回同委員会における配布資料2を参照*2
同資料を拝読させて頂くと,「官公庁,学校,病院等,公共的性格が強く,利用に際して個人による選択の余地のない」「又は極めて少ない」「施設については,「条例による規制を行うことが適当」との意見で一致」*3,また「民間施設」に関しては「条例による規制以外の効果的な受動喫煙防止対策が見出せない」との認識から「条例による規制を 行うべきとの意見が多」く,「民間事業者を代表する委員」からは「反対意見」の提示等がなされたものの,同委員会としては「将来のあるべき姿」は「公共性の高い施設,民間施設の別を問わず,禁煙であるべき」であることで「全委員の意見は一致」*4された,ともある.
同「意見の一致」からも「本来は,すべての施設に禁煙を義務付けることが適当」*5との考え方が示されてはいるものの,実際の規制の整備に際しては,「公共性の高い施設」と「それ以外の施設との間」で「規制の内容等の差」*6を設けることが適当とされる.そして,後者に関しては,大別すれば2つの施設区分を置く.まずは「禁煙を義務付けるが,やむを得ず禁煙とすることができない場合について,暫定的措置を認める施設」の施設区分を置く,義務付けとはするものの「暫定措置」を置く施設区分は,更に,「暫定的措置として,分煙を義務付ける施設」*7と「暫定的措置として,分煙又は時間禁煙を義務付ける施設」*8に分けられている.本記事で紹介されている,神奈川県受動喫煙防止条例「より厳しい内容」と報道されているのは,「暫定的措置として分煙又は時間禁煙を義務付ける施設」のうち「小規模な飲食店・喫茶店」に関しては「客席面積75㎡以下」と示されていること.また,もう一つの施設区分は,「禁煙に努めることを義務付ける施設」*9であり,努力義務とする施設区分とされている.
神奈川県受動喫煙防止条例からの「模倣プラスアルファ」により「政策移転」*10されつつある事例としも,観察するうえでは大変興味深そうな取組.神奈川県受動喫煙防止条例の策定に際しては,「政策の「最適な解」を求めていく努力を惜しんではならない」*11との認識が示されたこともある.確かに「最適解」を目指されつつも,その成果としては如何に「満足解」*12となるかは,今後の条例化に向けた審議状況も,要経過観察.

*1:兵庫県HP(暮らし・環境健康・福祉健康づくり)「兵庫県受動喫煙防止対策検討委員会(第5回〜)

*2:兵庫県HP(暮らし・環境健康・福祉健康づくり兵庫県受動喫煙防止対策検討委員会(第5回〜))「資料2 兵庫県受動喫煙防止対策検討委員会 報告書(案)

*3:前掲注2・兵庫県(資料2 兵庫県受動喫煙防止対策検討委員会 報告書(案))5頁

*4:前掲注2・兵庫県(資料2 兵庫県受動喫煙防止対策検討委員会 報告書(案))5頁

*5:前掲注2・兵庫県(資料2 兵庫県受動喫煙防止対策検討委員会 報告書(案))7頁

*6:前掲注2・兵庫県(資料2 兵庫県受動喫煙防止対策検討委員会 報告書(案))7頁

*7:前掲注2・兵庫県(資料2 兵庫県受動喫煙防止対策検討委員会 報告書(案))9頁

*8:前掲注2・兵庫県(資料2 兵庫県受動喫煙防止対策検討委員会 報告書(案))10頁

*9:前掲注2・兵庫県(資料2 兵庫県受動喫煙防止対策検討委員会 報告書(案))10頁

*10:秋吉貴雄,伊藤修一郎,北山俊哉『公共政策学の基礎』(有斐閣,2010年),254頁

公共政策学の基礎 (有斐閣ブックス)

公共政策学の基礎 (有斐閣ブックス)

*11:松沢成文受動喫煙防止条例』(東信堂,2009年),184頁

受動喫煙防止条例―日本初、神奈川発の挑戦

受動喫煙防止条例―日本初、神奈川発の挑戦

*12:松井望「政策の決定と実施」首都大学東京都市教養学部都市政策コース編, 和田清美監修『逆発想の都市政策』(ぎょうせい,2011年)136頁

逆発想の都市政策

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