中野区は、会計や情報、法務など七分野で係長以下の職員を対象に「エキスパート職員」の認定制度を導入した。外部の公的資格者らを専門職に充てるケースなどは都や二十三区でもあるが、特定分野で長く能力を発揮できる制度を内部に設けるケースはないという。
 業務分野はほかに、福祉・生活支援▽産業・経営支援▽まちづくり▽債権管理。これらの公的資格や職務経験のある総括係長、係長職、主任主事二年以上の職員を対象に、面接と職務記述書から適性や実務能力をみて区長が認定する。二〇〇七年度に約二千七百人いた区職員を、一五年度末で二千人態勢にするスリム化を区は進めている。少数で高度化・複雑化する行政課題に当たるには、専門職員がいる土木や建築など以外にも、高い専門的能力を持つ職員が必要と判断した。管理職昇進後も、専門性を生かして政策・計画策定への参加、知識や経験の継承などに期待している。
 各二、三人の予定だが、需要の高い福祉・生活支援はさらに増える見通し。一一年度中に情報一、福祉・生活支援三、債権管理一の計五人を認定し、四月から各分野で従事している。
 選考は年一回。認定後は、レベルアップに向けた公的資格取得の学費の助成も受けられる。大学卒業から最短七年で対象要件を満たせる。認定自体は給与に反映しないが、「自分の強みを生かせる公務員人生のプランを提案した」と、区担当者は話している。

本記事では,中野区における「エキスパート職員認定制度」の取組を紹介. 同制度は,2012年3月29日の区長記者会見にて紹介.
「区長記者会見資料」*1を拝見させて頂くと,「幅広い知識や経験を有する従来のゼネラリストとして組織に貢献する職員」と「エキスパートとして新たな価値を創造する職員が共存」し「それぞれに適したキャリア形成を可能とする複線型人事のための制度を築いていく」ことを目的に,「エキスパート職員」を導入.同職員には,「高度な専門性を発揮して区政目標の達成に貢献」すること,「全庁に対する政策・計画策定への支援」すること,「調査研究による経験知,暗黙知の継承」すること,「後継職員の指導・育成」することが基本的な役割となる.
具体的には,同職は,「3分類7類型」に区分されており,大きくは,「組織経営支援」,「区民生活支援」,「区政課題解決支援」の3つに分類される.そして,それぞれの分類の下に2〜3の類型を置く.まずは「組織経営支援」では,「会計」「情報」「法務」の3つに類型化する.各類型の役割としては,会計は「公会計財務諸表作成,コスト分析,業務改革等,情報は「情報システム構築・運用管理,業務所管分野支援」,法務は「条例立案,法令解釈に関する指導・助言,法制執務等」を担う.次いで,「区民生活支援」では,「福祉・生活支援」と「産業・経営支援」に類型し,それぞれ,「総合福祉(高齢者・障害者・子ども)相談支援,生活支援アドバイザー,地域・事業者連携等」と「事業経営・起業支援,地域経済活性化事業推進等」を担う.最後の「区政課題解決支援」の分類は,「まちづくり」と「債務管理」に分類され,「都市計画,資産評価,用地買収計画・交渉等」と「徴収戦略・徴収計画策定、滞納整理要員の育成等」*2を担う.
これらの分類・類型の「認定の方法」は,まずその「要件」は,「総括係長,係長職,または主任主事2年以上の者」であること,そして,「各分類・類型に関連する公的資格や職務経験を有すること」が求められる.具体的な「選考」手続は,「面接と職務記述書」に基づき,「エキスパート職員としての適性」,「職務意欲,行動力,実務執行能力などを総合的に評定」*3される,という.同手続を経た,2011年度の「エキスパート職員認定選考結果」は,本記事でも紹介されているように,「組織経営支援」分類の「情報」類型で1名,「区民生活支援」分類の「福祉・生活支援」類型で3名,「区政課題解決支援」分類の「債務管」類型で1名が認定されている.ただ,同資料からは,具体的な,評定者は把握できないものの,「ゼネラリスト」たる管理職が評定されていいるのだろうか.要確認.その場合,2010年7月1日付同年7月5日付同年9月20日付2011年4月26日付の各本備忘録にて言及した「専門能力の非対称性」を考慮すると,「評定」に際して,「エキスパート職員」が今後加わることも考えられなくもなさそうか.
また,「エキスパート職員としての適性」の判断として,「専門家であるかどうかが,究極的には専門性をもっているかどうかではなく,専門性をもっているという外部からの認識に左右される」*4とすれば,専門性をめぐってもまた「相場が立つ」*5ことも考えられなくもない.入庁段階での「固定相場的な人事政策」から,入庁後の「変動相場的な人事政策」*6化とも整理ができそうか(ただし,変動相場での「評定」後は,固定相場へと再び移行していくようでもある).実際の「評定」の取組と,評定後の運用も,要観察.

*1:中野区HP(中野区のご案内報道資料2012年報道資料2012年3月29日 区長3月定例記者会見を行いました)「2012年3月区長記者会見資料

*2:前傾注1・中野区(2012年3月区長記者会見資料)1頁

*3:前傾注1・中野区(2012年3月区長記者会見資料)2頁

*4:岡山裕「専門性研究の再構築」内山融, 岡山裕, 伊藤武『専門性の政治学』(ミネルヴァ書房,2012年)30頁

専門性の政治学―デモクラシーとの相克と和解 (MINERVA比較政治学叢書)

専門性の政治学―デモクラシーとの相克と和解 (MINERVA比較政治学叢書)

*5:大森彌『官のシステム』(東京大学出版会,2006年)74頁

官のシステム (行政学叢書)

官のシステム (行政学叢書)

*6:松井望「石原都政下の組織編成と人事政策」『都市問題』Vol.102,2011年6月,90頁