◇資材、人件費上昇 利益出にく
 都内の自治体が図書館や体育館などを建てようとしても、入札が成立しない事例が相次いでいる。東日本大震災の復興事業やアベノミクスによる景気回復への期待感で資材や人件費が上昇し、自治体が設定した予定価格で割に合わなくなっているからだ。7年後の東京五輪を控え、都内ではこの傾向がさらに強まる可能性もあり、自治体は「このままでは市民生活に影響が出かねない」と頭を悩ませている。
 北区では、同区志茂の「赤羽体育館(仮称)」の建設工事で、3回続けて落札者がいない事態となった。区によると、体育館の総事業費は約46億円。鉄骨地下1階・地上4階、延べ床面積約8500平方メートルで、弓道場やトレーニングルームなどを備える。総合的なスポーツ施設は同地区になく、10年以上前から心待ちにする住民もいて、今年春には着工しているはずだった。しかし、1月と5月、9月の計3回の入札で、いずれも入札額が予定価格を大幅に上回り、落札者が決まらなかった。
 予定価格は、国が示す基準を参考に各自治体が裁量で決めている。同区は「体育館の早期オープンも大事だが、業者の言い値を受け入れるわけにはいかない。今後は国の対応を見つつ検討したい」と話す。
 港区では、JR田町駅東口近くにできるスポーツセンターなどの施設の外構工事が、5〜8月にかけて3回連続で業者が集まらず、入札が実施できなかった。区は初回の予定価格を約3億5000万円に設定し、その後も1000万円ほど上乗せしたが、「経済情勢だけで価格を変えるのは難しい」と漏らす。既存の施設は取り壊しが決まっており、外構が完成しなくても、新しい施設は2014年7月にオープンせざるを得ないという。
 豊島区では、同区千早にできる図書館や区事務所などが入る施設について、8月は入札に参加する企業がなく、11月は予定価格を大幅に上回って落札者が出なかった。区は予定価格を約23億円から約33億円にまで大幅アップして臨んだが、それでも入札額は約47億円と高止まりしている。高野之夫区長は記者会見で、新施設のオープンが遅れると、既存施設の補強工事への出費が新たに必要になるとし、「非常に対応に苦慮している」と心情を漏らした。
 国土交通省によると、鉄鋼や木材など輸入資材の上昇傾向は続いており、担当者は「建設会社は損失を出さないよう仕事を選んでいるのだろう」と推測する。厚生労働省が発表した9月の建築・土木・測量技術者の有効求人倍率は3・55倍で、作業員不足も深刻だ。
 北川正恭・早稲田大教授(自治行政)は「五輪も控え、入札が成立しない事態は今後も続く。自治体だけでなく国全体で10年、20年先を見据えた公共事業の在り方を考えるべきだ」と指摘している。

本記事では,北区,港区,豊島区における入札の不調状況を紹介.
「多額の費用」*1とも解されてきた公共事業.とはいえ,本記事によると「景気回復への期待感で資材や人件費が上昇し,自治体が設定した予定価格で割に合わなくなっている」ことから,東京都に位置する特別区でも入札の不調が続くケースがあることを報道.現在,個々の被災地での不調も観察されるなか,事業の進みと遅れの前提となる公共事業の受注状況は要確認.

*1:礒崎初仁・金井利之・伊藤正次『改訂版 ホーンブック地方自治』(北樹出版,2011年)122頁

ホーンブック 地方自治

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