東京都杉並区は静岡県南伊豆町などと共同で2017年度にも区民が入所できる特別養護老人ホームを同町に整備する。都道府県の枠を超え自治体が連携し特養をつくるのは初めてという。杉並区は入所を待つ待機高齢者を減らせるほか、南伊豆町は雇用創出が期待できる。都市部で急増する待機高齢者を減らすために、都市と地方が手を結ぶモデルケースとなる。
 杉並区と南伊豆町静岡県は11日、整備に向けて基本合意した。町有地に整備する特養は100人程度が入所できる見込みで、要介護度などの条件が同じなら杉並区と南伊豆町の住民が優先して入所できる。建設や運営は、区と町が公募する社会福祉法人が担当する。杉並区の待機高齢者は約1800人に上る。田中良・杉並区長は「地価が安い所で施設を造り、中身に資金をかけた方が入所者にとってよい面もある」と話す。区は南伊豆町に児童向け施設を長年所有していた経緯があり、交流があった南伊豆町と組むことにした。伊豆半島最南端に位置する南伊豆町は高齢化が進み主力の観光産業は低迷している。特養ができれば、入所した区民の家族が訪れたり町民も入所できたりするほか「70〜80人の新規雇用が期待できる」(静岡県)。
 入所者の医療費は入所前の自治体が負担する特例制度があるが、75歳以上になると施設がある自治体に公費負担が移るため静岡県などの負担が増す懸念があった。厚生労働省は前の自治体が負担し続けるように制度の見直しを検討する一方、本人の意に反して遠方の施設に入所させられることがないようにする方針。

本記事では,杉並区における特別養護老人ホーム整備の取組.
2013年5月9日付及び同年9月13日付の両本備忘録で記録した杉並区による,南伊豆町での「区有地」への特別養護老人ホーム整備の取組.本記事では,2014年12月11日に杉並区,南伊豆町,そして,静岡県の間で,同町の「町有地」での整備に向けて「基本合意」が締結されたことを紹介.厚生労働省に設置された「都市部の高齢化対策に関する検討会」が2013年9月26日に取りまとめた報告書では,両区町は「かねてより住民同士のつながりが深く」「両自治体で災害時に備えた協力協 定を締結するなど」「自治体間連携が進んでいることを背景」に進めるにあたり,「東京都と静岡県介護保険事業支援計画」の間で,「杉並区から南伊豆町特別養護老人ホームに入所するニーズを明記した上で調整が図られることが必要」とされており,加えて,「入居者本人の意思の尊重が大前提」として「重度の要介護状態」の場合に「本人の意思にかかわらず」「家族や地域から切り離されて地方の施設に入所させられるといったことにはならないよう十分な配慮が求められる」*1ている.
都域・県域を超えた市区町村間での「水平補完」*2としても整理ができそうな同取組.上記の報告書では,「地方の市町村が不特定多数の都市部からの入所を期待して特別養護老人ホーム等を整備しようとすることについては.都市部の高齢者本人の意思 に反して地方の施設入所を強いる形となってしまう恐れがあることに加えて,地域包括ケアシステムの構築を進めているそれぞれの地域において把握される医療・介護サービスの需給に意図しないギャップを生じさせることにもつながりかねないことから,慎重に検討すべき」*3とも言及されてはいるものの,今後の他の市区町村間での整備動向は,要観察.

*1:厚生労働省HP(政策について審議会・研究会等老健局が実施する検討会等都市部の高齢化対策に関する検討会都市部の高齢化対策に関する検討会報告書について)「都市部の強みを活かした地域包括ケアシステムの構築」(都市部の高齢化対策に関する検討会報告書)20頁

*2:真山達志「危機管理と自治体」真山達志編著『ローカル・ガバメント論』(ミネルヴァ書房,2012年)118頁

ローカル・ガバメント論―地方行政のルネサンス

ローカル・ガバメント論―地方行政のルネサンス

*3:前掲注1・厚生労働省(都市部の強みを活かした地域包括ケアシステムの構築)21頁