本日は,2013年7月27日付の福井新聞*1でも紹介された同書.東京大学社会科学研究所による「希望学・福井調査」の「最初の成果報告」(穌頁).同書収録のエッセイの大部分は,2012年2月から2013年3月の同紙の連載企画に掲載されたエッセイに加筆されており,そして,新たなエッセイ,対談,職員インタヴューが加えられている.
「福井の魅力とは,実のところ,収拾がつかないほどの多様さなのだ」(293頁).福井の印象はまさにそうだ.本書では,政治と経済,生活と家族,文化と歴史の3つのテーマで福井の多様な姿を見せてくれる.しかし,その多様さは,決して「ばらばら」(22頁)ではない.これも同書のメッセージだろう.多様さのなかに(そして,あいだに)「約束事」(23頁)がある.約束事で緩やかに結ばれた多様さであることにも気づく.
では,多様さを結びつけるものは何か.一つは家族と思った.本書で紹介されている意識調査の結果では「福井ではそもそも家族に希望を感じる人が仕事以上に多かったこと」「家族の将来のことを何よりも大切と思い,家族のために仕事をしたり,熱心に子どもの教育のことを考えている」(55頁)ことが明らかにする.「家族とのコミュニケーション」(414頁)が結びつける基盤となっているだろう.
多様さを結びつけるものの,もう一つは仕事だろう.福井の仕事を見たときの特徴は,女性の労働率の高さにある.「家族みんなが働き手」(103頁)なのだ.女性は仕事に「やりがい」(236頁)をもち,働くことで,一人ひとりの生活の多様さを結びつけるのだろう.反面,年代毎で「やりがい」への意識の相違も本書は明らかにする.「イキイキと働いている」「50代以降の女性」に対して,「30代40代の子育て世代の女性たち」(238頁)には「「働かなければならない」という社会的プレッシャー」(236頁)もあるともいう.なるほど,緩やかな結び付きがジワジワと働くことを強いられるのだろう.
そうであれば,むしろ社会的プレッシャーを与える家族モデルから「個人単位モデル」*2への転換があってもよい.また,実際にも世帯人数は減少し,家族モデルは変わりつつある.変わりつつあるなかでの家族を大切にする意識.決して明瞭には割り切れない現状もある.一つの地域を支える最小単位の家族の多様さとは何かも考えさせられる.
では,家族を結びつけるためにはどうするのか.自治体行政は何かできるか.そのような関心を持って読み進めるなかで出会った,次の指摘には,なるほどと思いました.

行政として,空き地や空き家を活用することで家族の近居を後押しし,生活利便性や安全性が高いところに人々が集まって暮らせる仕掛けが,もっとあってもいい.」(285頁)

*1:福井新聞(2013年7月27日付)「福井の「希望学」調査が集大成 東京大社会科学研、成果を本に

*2:横山文野『戦後日本の女性政策』(勁草書房,2002年)402頁

戦後日本の女性政策

戦後日本の女性政策