本日は,同論攷.後期に開講している,地方公務員制度と自治体職員の人的資源管理をテーマとする講義の講義ノート補充のために拝読.講義でもぜひ説明したくなる,面白い論攷.
なぜ,地方公務員になるのか.公共の利益のためか.安定した報酬と処遇が期待できるためか.物理的な移動が少ないからか.国家公務員の場合,人事院が実施する「新規採用職員に対するアンケート調査」を素材に公共性と個人的動機との対比を示すことがある.方や地方公務員ではその就業動機の実証的な分析も少ないこともあり説明に苦慮することが多い.
本論攷では,職業選択での「とりあえず志向」に着目する.「とりあえず志向」という志向自体がやや「曖昧で中途半端」(88頁)な印象ももつ.しかし,「とりあえず志向」は「今日的就業の特徴」(88頁)でもあるという.例えば,同論攷では,著者が2011年5〜8月に43都道府県に対して実施された「若手公務員の就業意識調査(個人調査)』に基づき,236市役所区役所等の「入職15年目までの若手職員」を対象とした郵送法と電子メール法に基づく調査結果を分析する(サンプル数:配布数6181,有効回答数4015(有効回答率64.9%)).同調査に基づくと「全体の34.6%」が「とりあえず志向層」(91頁)として抽出されている.なるほど,少なからずの層は「とりあえず」選択していることが推察できそうだ.
では,「とりあえず志向」に至る要因は何か.本論攷の推定では,基本属性,発生要因,進路選択要因から,次の結果を示す.まず,基本属性では「第2子以下の者ほどとりあえず志向が高まる」(95頁)こと,次いで,発生要因では「受験準備期間中,思考や努力を重ねて明確になった希望職種に向けて習熟度を徐々に高めていく過程でとりあえず合格したい(定職に就きたい)という志向性が芽生えること」(96頁),最後に進路選択要因では「十分な職業観や職種イメージを持ち得ない場合に「公務員=安定→なりたい職業」というイメージ先行の意識が働きやすくなること」,そして「「親・家族の介護や世話」等のプライベート・トラブルが存在しない場合にとりあえず志向が生じやすくなること」(96頁)である.つまり「とりあえず志向」は,差し迫った理由や強い動機よりも試験準備の過程で合格への意欲から生じているようでもある.
本稿の面白さは,「とりあえず志向」の存在と規定要因を抽出したことだけには止まらない.この「とりあえず志向」が,職業キャリア意識へ及ぼす影響を推定された点にある.同結果から驚くべき分析結果は,「とりあえず志向に基づく公務員就業が職業人生の道筋や将来見通しを明るくする可能性が高い」(98頁)点にある.なるほど.つまり「とりあえず志向」は,採用後のキャリア意識には必ずしも悪くはないのだ.このようなキャリア意識を規定する要因を分析された,次の指摘はなるほどと思いました.

入職前に自己と対峙する機会を十分に持ち,置かれた状況を現実的かつ段階的に捉えて行動することこそが,自覚的なキャリア意識を持つ布石になる」(98頁)