同記事では,大分市から指定管理を受けた公社において,管理を行う部門内の所属長の就任期間が長期化していることを紹介.同所属長の職に関しては,能力主義に基づく能力等級制に準じた任用が旧来なされてきた模様.そのような任用環境のなかで,同一職に10年近くも就任することは稀とのこと.これらの任用方式から,年功序列型任用への変更の様子が見えつつあるともいう.同部門の任用の仕組みは仄聞した限りであったため,同記事のような変容は興味深い.同長は既にかなりの高齢のご様子ではあるが,ジョン・ロバーツ先生が指摘された,リーダシップの要素である,戦略的認識,ビジョン,コミュニケーション能力,勇気*1を揃えているのだろうか.
勿論,同一職に長期就任していることは,ただそれだけでは必ずしも否定されることではあるまい.ハーバード・サイモン先生が嘗て分析された概念を援用すると,長自らの「権威」が構成員からの「受容」*2があるからこそ,その職の長期安定に結びついているとも考えられる.また,長期的な社会関係に前提とされる「互恵的利他行動(reciprocal altruism)」,つまり,持ちつ持たれつ貸し借り関係*3が同部門で構築され,そのことが結果として却って更なる長期化を生んでいるとも考えられる.長期化により構成員もまた大なり,小なり利得となり,長の権威を受け入れていくのだろう.
ただ,同記事では,同部門長は,「大部屋」の構成員達を率先して主導する行動より,責任回避型の行動を近年とり,部門としての難事を乗り切っているとの分析がなされている.一見するとやはり長期化ゆえの弊害もあるともいそう.ただ,他の類似部門ではあるが,同部門の構成員は,複雑な社会環境のなかで,「それぞれの個体がどういう行動をとったかを,個体間の関係や状況ごとにカテゴリーに分類して憶えておいて,それと類似の条件から相手の行動を予測」する「すぐれた行動学者」*4とも分析されており,そうであれば,このような長の時々の責任回避行動もまた構成員達は受容し支えているのだろうか.長がいかなるものであれ,構成員もまた気苦労が多いということか.なお,同部門HP*5によれば,その構成員数は516,一の所属長が管理するとなると大きめか.
長の名前は,ゴルゴ.所属は,高崎山自然動物園.職名は,ボスザル(αオス).

大分市高崎山自然動物園のB群α(アルファ)オス(旧称ボス)の「ゴルゴ」は、これまでのαオス在任最長記録(九年九カ月)を破り、歴代トップとなった。年齢は三十歳で、人間でいえば百歳に相当する長老。市高崎山管理公社は「高崎山は平和なので、サルの社会が力から年功序列型へと変化したのではないか」と、”長期政権”の背景を分析している。
αオスの在任最長記録はヤマ(C群・初代)が持っていた。ゴルゴがB群十四代目のαオスに就任したのは一九九八年九月二十二日で、六月二十二日にヤマに並び、以後、記録を延ばしている。ゴルゴは個体識別の番号が十三番で、もみあげが長く、劇画「ゴルゴ13」の主人公に似ていることから名付けられた。以前のαオスは、群れのサルが野犬に襲われそうになると一匹で立ち向かった。子猿に近づこうとする職員や観光客を威嚇。「体を張って群れを率いるリーダーの姿があった」という。しかし、ゴルゴは、観光客が抱いた生後三カ月の子犬を見て一番先に逃げた―という逸話もあり、”たくましさ”は感じられない。最近は、歯が抜け、毛のつやも無くなり、ふらついて真っすぐに歩けないなど、老化が顕著。ゴルゴの名付け親で、市高崎山管理公社の河野光治業務課長(59)は(1)かつては野犬が現れてサルを襲うこあったが、最近そのような光景は見られない(2)五十年以上にわたる餌付けで、えさに不自由することはなく、サルが長生きするようになった―など、高崎山の変化を指摘。「ボスの役割も変わったようだ。迫力あふれるボスを見てきただけに少し寂しい。超高齢なのでいつボスが代わってもおかしくないが、高崎山の在任記録を打ち立てたゴルゴの姿をぜひ見てほしい」と話している。

*1:ジョン・ロバーツ『現代企業の組織デザイン』(NTT出版,2005年)58〜61頁

現代企業の組織デザイン 戦略経営の経済学

現代企業の組織デザイン 戦略経営の経済学

*2:ハーバード.A.サイモン『経営行動―経営組織における意思決定プロセスの研究』(ダイアモンド社,1989年)15頁

経営行動―経営組織における意思決定プロセスの研究

経営行動―経営組織における意思決定プロセスの研究

*3:長谷川寿一長谷川眞理子『進化と人間行動』(東京大学出版会,2000年)164〜165頁

進化と人間行動

進化と人間行動

*4:小川秀司『たちまわるサル』(京都大学学術出版会,1999年)252頁

*5:国立公園高崎山自然動物園HP「高崎山What!