国学力テストの二〇〇七−〇八年度の市町村別、学校別結果を鳥取県教育委員会が非開示と決めた十一日、序列化を懸念して開示に反対してきた学校現場や市町村教委から安堵(あんど)の声が聞かれる一方、「原則公開」をうたう県条例を運用すれば開示は当然との制度論的疑念や開示を学力向上に生かす取り組みの必要性を指摘する意見も上がった。〇九年度以降の結果の取り扱いは先送りされ、条例の内容も含めて開示の是非をめぐる議論は今後も続くことになる。
教育委員会の臨時委員会は制度論、教育論双方を交えた議論の末、六人の教育委員のうち五人が非開示を支持、中永広樹県教育長のみが開示を主張した。開示の必要性に触れながら非開示を前提としたテストだったという「約束」を理由に反対した委員も。異例の多数決で結論を出したものの、非開示の明確な根拠、決め手に乏しかった。中永教育長は県情報公開審議会の答申の重みを尊重したい意向を再度明言。「漠然とした恐れを拡大解釈するのではなく、明確な恐れを提示しないといけない」とし、県の基礎学力調査の結果公表後に支障を来した具体事例が現場から多くは上がらなかったと指摘した。若木剛委員は「開示した場合のデメリットを具体的にというなら、メリットも具体化してほしい」と主張。今出コズエ委員も「(現場は)点数主義などの価値観が強まることを懸念しているのでは。成熟した社会ができていないから不安が出てくるのだろう」と、現場から噴出した開示への強い反対に理解を示した。県教委によると、PTA関係者との意見交換会の反応は「西部は半々。東・中部は八−九割が非開示」だったという。東部での意見交換会に出席した上山弘子委員は開示を懸念する保護者の声を紹介しながらも「開示によって、どういう教育をしていくのかを学校も保護者も考える機会になるのではないか」と開示のメリットを強調。ただ、非開示を前提にテストが行われたことを踏まえ「大人が児童らにうそをつくことになる」と最終的には非開示に回った。山田委員長は「開示を序列化ではなく、教育の質向上へ結び付けることを皆で考えるような『成熟した社会』ができていない現段階では、開示への条件整備が必要」と説いた。唯一明確に開示の立場を取った中永教育長は「恐れがあってもはね返していくのが教育。たかが二教科、二学年の結果で、参考までの数字だ。この数字以外にもそれぞれの学校が展開する独自の教育があるはずなのに」と唇をかんだ。

同記事では,鳥取県において,全国学力・学習状況調査結果に関する同県情報公開審査会の開示請求の答申に対して,同県教育委員会では,「非開示」との判断を示したことを紹介.7月10日付の本備忘録8月6日付の本備忘録でも取り上げた記事の,教育委員会としての結論.同記事では,「明確な根拠を示せず」とやや厳しく言及されているが,その審議の内容に関しては,同県教育委員会HPで把握することができる*1予定.同記事に関する議事が審議された「平成20年8月臨時教育委員会」において配布された資料を拝見させていただくと,教育委員会と通じて,保護者や県民への意見聴取やアンケート調査,教組から要望書等において「非開示」を求める声が多いことが資料からは分かり,同判断への根拠が少なからずこれらにあることが分かる.これらの資料をもとに,同委員会で,情報公開審査会の異議申立決定への「却下」とする,合理的な判断が示されたのであろう,恐らくは.議事録の公開を待ちたい.
8月6日付の本備忘録では,都道府県と市町村間での教育委員会での「系統性」が薄まっているのではないか,と「見立て」ては見たものの,徳久恭子先生の分析結果にもあるように,戦後日本の教育行政における「重層構造」と「権限の階層性」*2には大きな変化はないのかも知れない.また,同著に言う「総合行政」の範疇に,情報公開制度を含めることは妥当なのかについては意見が分かれるところかとも思われるが,含めた場合,「総合行政」に対する斥力は大きなものなのだなあ,と素直に思う.
なお蛇足.同県教育委員会の判断は,情報公開条例を考えるうえで一つの問題提起を行っているようにも思う.情報公開条例上の争点の一つには,その対象となる「実施機関」の範囲が問われてきた.これは,現在でも「どこまでを対象機関に含めるべきかについては,まだ十分な議論が進んでいない」*3ともされて,依然結論の出ない争点.特に,昨今では,自治体が設立する各種団体を,「実施機関」に含むか否かが争点とされてきた.これには,一部の情報公開条例では,自治体が設立する地方三公社,自治体が100%出資する財団法人を「実施機関」に含める程度で,大半の自治体では「出資団体」との概念を設けて「情報公開の努力義務を規定する方法」(168頁)で止まっていることが大半の自治体であるという.更に遡ってみれば,情報公開条例の設立当初の争点には,「実施機関」のなかに公安委員会を含めるか否かという争点もあった.結論からいえば,2000年の警察刷新委員会による「警察刷新に関する緊急提言」の提出を受けて,各都道府県の情報公開条例は改正され,現在では「実施機関」に追加されている.このような「実施機関」の範囲を巡る経緯や現状と,同記事とを関連づけて妄想してみると,同県教育委員会の今回判断は,情報公開条例の対象となる「実施機関」の範囲への問いかけにもなっているのではないかとも考えさせられる.むろん,教育委員会は嘗ての公安委員会の地位にも近いものを求めている,とか,県から「資金」「職員」は充当されているものの,実質的な「権限の階層性」から「出資法人」並みの独立性を求めている,との揶揄にも近い指摘をするつもりは毛頭ない.ただ,同県のように教育委員会自体は,その審議内容等に関しては,積極的な情報公開を進められているなかで,情報公開条例との関係の面では情報公開審査会の答申を(恐らくは思案に思案を重ねてうえでとは推察されるが)乗り越える判断を示されたことは,結果として「実施機関」の実質的な範疇とは,という原理的な問いかけを示しているように思う.
情報公開条例制度は,その制度運用に関連する情報は多く存在するなかで,制度運用に関連する十分な観察がなされていないようにも思う.各地でベストプラクティスもあれば,制度設計時に想定された利用には必ずしも至らない事例もまた仄聞する限りではある.今後の観察課題.

*1:鳥取県HP(教育委員会過去の委員会会議録)「平成20年8月臨時教育委員会

*2:徳久恭子『日本型教育システムの誕生』(木鐸社,2008年)310〜311頁

日本型教育システムの誕生

日本型教育システムの誕生

*3:中川丈久・斎藤浩・石井忠雄・鶴岡稔彦編『公法系訴訟実務の基礎』(弘文社,2008年)167〜168頁(同書は,細々と読みつつありますが,訴訟実務の執行形態がよく分かり,良書.勉強になります)

公法系訴訟実務の基礎

公法系訴訟実務の基礎