地域の視点で様々な文化財の保存・活用を図る文化庁の「文化財総合的把握モデル事業」に、県内から唯一、日南市と北郷、南郷両町の事業計画が選ばれた。今年度から3年かけて、各自治体の文化財をテーマごとに分類し、地域振興の資源としてどのように関連づけられるかを研究していく。(陶山格之)
 これまで文化財の保護は、文化財保護法の下で個々の特性に応じてきめ細かい措置が取られてきたが、モデル事業では地域に点在する文化財を周辺環境と絡めながら総合的に取り組む。成果は、同庁が策定する「歴史文化基本構想」の指針として役立てる。今年6月、同庁が募ったところ、58件の事業計画が寄せられた。その中から、地域住民の参加が期待されるといった審査基準を満たした20件を選んだ。3市町は合併して、来年3月30日に新「日南市」となるため、指定・登録文化財を広域で調査する必要がある。こうした文化財は、油津赤レンガ館(国登録有形文化財、日南市油津)や堀川橋(同)などを含めて国27件、県18件、市町46件に上る。計画では、テーマを〈1〉飫肥城下町と関連遺跡群〈2〉港町油津と堀川運河〈3〉飫肥杉美林と坂元棚田〈4〉日向神話と鵜戸神宮〈5〉伊東と島津の中世城郭群――の五つに分類。文化財をテーマごとに整理し、保存活用計画をまとめる。10月には、保存活用計画を策定するために、有識者や行政関係者、住民らで構成する委員会が発足。年度内に日南市の6か所で寺社建築調査を行う。北郷南郷町を含めた広域的な調査は来年度以降になる。市生涯学習課は「異なる文化財の保存、活用に一体感を持たせれば、今後、整備していくうえで、方向性がぶれなくなる。地域にとっても、まちおこしのきっかけづくりになるはず」と期待を寄せている。

同記事では,日南市,北郷町,南郷町の3自治体において,文化庁文化財総合的把握モデル事業」の受託を受けて,同区域内における「歴史文化基本構想」の策定に向けた取り組みを開始することを紹介.
同事業に関してはは,2006年〜2007年にかけて,文化庁に設置された文化審議会文化財分科会企画調査会から提出された答申を参照*1.同報告書内では,各自治体において「関連する文化財とその周辺の環境を一体としてとらえるため」にも,「歴史文化基本構想」の策定を求めている.そして,将来的には「地方公共団体が基本構想を策定できる根拠となる規定を,今後,法律に設けることを早急に検討する必要がある」(11頁)と,恐らくは「努力義務規定」として,「歴史文化基本構想」設置に関する法制定の必要性を提案している.同事業は,同報告書に言うところ同法制定に向けての「モデルケースとして基本構想の策定を行い,その方向性や課題を明らかにしていく」もの.同委託調査で得た結果を受けて,文化庁では「全国の市区町村において「歴史文化基本構想」等を策定することができるよう,「歴史文化基本構想」等の策定の指針を作成することを予定」*2ともされている.一見すると調査委託のようではあるが,実際には構想策定までを行う大がかりなモデル事業補助金の性格が強そうな内容か.
受託を受けた20自治体では,今後は「歴史文化基本構想等策定委員会」を設置し,「域内の全ての文化財類型の調査」「調査に基づいた「歴史文化基本構想」の策定」「「歴史文化基本構想」に基づいた「保存活用計画」の策定」「地域住民等に対する説明会等の開催」を行うことが求められている*3.このように一大事業ともいえる受託業務ではあるが,特に,当該市区町村の教育委員会に限らず,都市計画担当部局,農村振興担当部局等,そして,当該市区町村が存する都道府県教育委員会都道県都市計画担当部局,農村振興担当部局等,住民,有識者から構成*4される「歴史文化基本構想等策定委員会」の設置が義務付けられており,既存の各計画間調整が必要となることが想定される.特に,今回受託を受けた20自治体の内,盛岡市足利市佐渡市高岡市加賀市高山市・津和野町・尾道市太宰府市や.複数自治体で受託した内の小浜市・日南市は,近年景観行政団体に移行しており,これにより策定する景観計画との兼ね合いも出てくることも想定される.単なる計画という「紙々の争い」ではないため,庁内及び庁外に対して「十分な交渉力」*5が,恐らく同受託事業を主導する教育委員会にどの程度確保されるかは,今後の観察課題.
個人的には,将来的に「歴史文化基本構想」が法定化された場合(具体的には,「地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律」(歴史まちづくり法)の改正なのだろうか)の位置づけに関心.昨日開催された第57回地方分権改革推進委員会提出資料*6において,「義務付け・枠付けの存置を許容する場合のメルクマール」に「非該当と考えられる例」として,「地方自治法第2条第4項に定める基本構想」が例示されているところを見ると,今後,法定による自治体への各種構想策定要請のあり方もまた,その位置づけには慎重にならざるを得ないかとも思う.こちらも,要経過観察.

*1:文化庁HP文化審議会文化財分科会企画調査会『文化審議会文化財分科会企画調査会報告書』(2007年10月30日)9〜11頁

*2:文化庁HP「「文化財総合的把握モデル事業」の募集について文化庁文化財部伝統文化課『「文化財総合的把握モデル事業」募集案内』(2008年5月)

*3:文化庁HP「「文化財総合的把握モデル事業」の募集について」「実施委託要項

*4:文化庁HP「「文化財総合的把握モデル事業」の募集について文化庁文化財部伝統文化課『「文化財総合的把握モデル事業」募集案内』(2008年5月)(同募集内において「想定」されている実施体制で,「地方自治法第2条第4項に定める基本構想」の「担当部局」(つまり,企画担当部局)が「等」に含まれているのは,ご愛敬か)

*5:大橋洋一『現代行政の行為形式論』(弘文堂,1993年)257頁

現代行政の行為形式論 (行政法研究双書)

現代行政の行為形式論 (行政法研究双書)

*6:地方分権改革推進委員会HP(第57回:2008年9月16日開催)『資料3地方公共団体の自治事務の処理又はその方法の義務付け:資料3−3「「義務付け・枠付けの存置を許容する場合のメルクマール」(「中間的な取りまとめ」4(1)) の該当性