香川労働局は30日、公共職業安定所ハローワーク)の所長を、民間から公募すると発表した。高松公共職業安定所で複数の職員が関与した不正支給が発覚したことを踏まえ、民間の効率・効果的な手法を取り入れて組織改善を図る。
 所長の民間登用は四国初で、全国では兵庫、広島労働局などに次いで8例目。塚田滋局長は、「民間経験者を迎え、内向きの体質を改めて組織の活性化を図りたい」と説明した。公募は1人で、国家公務員として採用する。所属長として10人以上の部下を2年以上管理した経験や、人事・労務管理の知識、法令順守やCSR(企業の社会的責任)活動に従事した経験を持つことなどが条件。年齢不問だが、60歳で定年となる。来年4月1日付の採用で、県内6カ所のハローワークのいずれかに配属する。配属先について同局は、「採用者の年齢や経歴を踏まえて決定する。複数の安定所へ異動することもある」としている。応募締め切りは12月22日。書類審査、面接試験を経て、来年2月下旬に合格者を決める。募集要項は同局のホームページ<http://www.kagawa−roudou.go.jp>で公表する。

同記事では,香川労働局において,公共職業安定所の所長に民間人の採用を開始したことを紹介.詳細は,同局HPを参照*1.同記事にある同所長の募集はHP上に掲載されているが,まさに「先ず隗より始め」で,公共職業安定所内に置かれている求人探索機においてもまた,求人情報として表示されているのだろうか.
個人的には,往年の第一線官僚制研究の関心に沿いつつ,民間経験者が指揮命令系統に関与することにより,第一線職員が利他主義的配慮によって生じると観察されてきた,いわゆる「善意による支配」*2にはどのような影響があるのか(特に,いわゆる消費者志向(Consumer-Oriented)の観点からは「善意」が徹底されることになり「善意による支配」が強まるのか,又は適正化が徹底されるのか)興味あり.同記事でも紹介されている既に所長への民間人採用経験のある公共職業安定所では,どのような運営状況にあるのだろうか.
なお,公共職業安定所に関しては,地方分権改革推進委員会においても幾度か繰り返されているテーマの一つ.特に,公共職業安定所の業務のうち「職業安定法に基づき公共職業安定所が行う無料職業紹介事業」に関する業務主体を巡って,厚生労働省と同委員会側で意見が提示されてきている.つまり,『第一次勧告』にて提示された「国と地方の役割分担のメルクマール」に基づけば,同事業は「分担型」*3と整理されたことに端を発し,厚生労働省からは,「公共職業安定所の全国ネットワークによる無料職業紹介業務」は,「引き続き国が実施することが不可欠である」との見解を示され,「国専担型」*4への変更を提案されてきている.その理由としては,「当該業務を都道府県に移譲することは,自治体の自主性・自立性の発揮や住民の利便性の向上などが見込まれ」ないとして,更には,「地方自治体の総合行政の確立等に資するもの」とはならない,との判断からとある.そして,「国が行う無料職業紹介事業は、全国斉一なナショナルミニマムを確保するため実施している」として,自治体が「自ら行う行政施策の附帯業務として任意に実施する無料職業紹介事業とは,目的や方法等が異なる全く別のものである」と現在の公共職業安定所は,都道府県が行っている「付帯業務」とは異なるとの見解が示されている.同資料からは,都道府県業務の性格を巡る見解,特に「総合行政」という「行政言説」を巡る各府省の間,そして,自治体との間での認識の相異を窺うことができ(やや神学論争にも近い部分もあるが),興味深い.
第61回委員会の公開討議では,委員会側と厚生労働省とはほぼ同様の立場ではあるものの,厚生労働省による提出資料では,都道府県との連携事業の方向性(「ふるさとハローワーク事業(仮称)」の実施)の可能性が示されている.同説明には,委員会側からも,「分担型」へと歩みつつあるからか,「国と地方の共同事業は一歩前進」*5との評価が示されている.
ただ,都道府県が実施する無料職業紹介事業に関しては,国の事業との連携を求める論点に対して,「「ふるさとハローワーク」事業など都道府県と国が共同で就職支援を行う場合,当該施設に求人検索端末を配置し,当該地域のハローワークに行く求職者と同じ求人情報が閲覧できるようにする」との説明をされ,「都道府県が自ら無料職業紹介事業を行う際に,地域のハローワークに行く求職者と同じ求人情報を活用させることについては,経費負担や求人者との関係など様々な条件について検討する必要」*6があるとされる.要するに,例えば端末を2台置くということなのだろうか.となると,「分担」なのか,それとも,分立なのかだろうかと,よく分からなくなる.
これらに対して「都道府県が行う事業に全面的に任せる範囲を広げるべき」「都道府県を民間と同格に位置付けることはやめ,国と分担し協働するパートナーとして認めるべき」「都道府県の事業を「公共職業安定事業」として法律で位置付けることが重要」との委員側から提案もある.これには,「二重行政を避けつつ雇用対策の全体を一体的に推進するため、国と都道府県が雇用対策大綱のようなものを共同で作り,両者が互いに施策の実施を要請するなどパートナーとして施策を実施する仕組みの整備を検討」するとされ,「場合により雇用対策法に位置付けたい」とある.ただ,「公的な職業紹介は,現在基本的に国が行う仕組み」として,「国と地方を職業安定法上全く同格に位置付けることはILO条約との関係で難しい」として,「地方自治体が行う事業に民間とは異なる公的な性格があることについて法制上の問題も含めて検討したい」*7との発言がなされている.「パートナー」の指すとことは資料のみではわからない部分もあるが,分担せずとも存在は認めるということなのだろうか.また,都道府県が提供する事業にも「公的な性格がある」と制度上位置づける考えも提示されているが,同記事のように,一方で民間的な色彩を公共職業安定所においても取り入れようとするなか,ここで想定されている「公的な性格」とはどの様なものであるのか,これもまた考えてみると興味深い問題提起ともいえそう.
なお,蛇足.それほど遠くない以前に,公共職業安定所にてある自治体の嘱託職員の求人を拝見させて頂いたことがある.その時に,「創業年」の欄には(恐らく)市制施行年が記載されており,そして,「事業内容」には「地方公務 市町村機関」と記されていたことを思い出す.「嗚呼,分権一括法後も,市町村は「機関」なのね」,と何となく嘆いた記憶を思い出す.