建築家 安藤忠雄

建築家 安藤忠雄

最近では「東京都を変えるために闘う仲間だ」*1とも評される,建築家・安藤忠雄による自伝.
「都市ゲリラ」(72頁)的に住宅の設計から開始し,商業施設,公共施設,都市,更には植樹活動(317〜320頁)を通じた森づくりへとその設計の対象が広がるなかで,何れの設計においても資金,法規制(169〜170頁),クライアントとの緊張感(121頁),素材の品質管理のための工法と技術(153頁)等の制約の下で,建築家として「都市に対してある眼差しを持った建築」「都市に物申す建築」(104頁)を進めてきた一人の建築家の実践的試みと,その設計思想が辿られている.制約を制約として受容しつつ一貫性をもつ設計を進めていく建築家の姿と,それにより形成される公共空間の意義を考えさせられる一冊.
同書は,建築家に限らずとも,数々の制約下に生きるものにとっては琴線に触れる幾多の表現に出会うことができ,次の一歩を踏み出すことを後押してくれる.
「それでも残りのわずかな可能性にかけて,ひたすら影の中を歩き,一つ掴まえたら,またその次を目指して歩き出し―そうして,小さな希望の光をつないで,必死に生きてきた」(381頁).
「仮に私のキャリアの中に何かを見つけるとしても,それはすぐれた芸術的資質といったものではない.あるとすれば,それは,厳しい現実に直面しても,決してあきらめずに,強かに生き抜こうとする,生来のしぶとさなのだと思う」(381頁).