横浜市教育委員会が、特別支援学校を除く全市立学校計五百校で、児童・生徒によるトイレ清掃をおよそ三十年ぶりに復活させることが四日、分かった。対象は小学三年生以上の予定。今月中旬以降、モデル校の小中学校十校前後に順次導入し、二〇〇九年度を試行期間と位置付けた上、一〇年四月から全校で本格実施する。教職員からは「身の回りのことを自らできるようになるのは重要」「感染症など衛生面に問題がある」など賛否両論が出ている。
 市教委によると、県内の公立学校では、横浜市の児童・生徒だけが全くトイレ清掃をしていない。トイレという共有スペースの便器や床、ドア、ノブなどを掃除することで、物を大切にする心や規範意識を養おうという狙い。少子化の影響からか、個人中心の考え方をしがちな子どもが増えているため、「公共の精神」を育てる目的もあるという。学校関係者のひとりは「トイレへの落書きや破損を含む暴力行為の件数が、〇五年度に過去最高に達したことも影響しているのではないか」と指摘する。過去に児童・生徒がトイレ清掃を実施していたこともあったが、一九七〇年代後半以降は「校務員の業務」と位置付けられてきたという。現在、小学校は昼休み、中学校が放課後にトイレを除く掃除を行っており、トイレ清掃もこの時間帯に行う予定。トイレ清掃の復活は教職員の反応を二分。反対派は「公共心が育つのか疑問」「ノロウイルスやO―157などに感染しない対策が取れるのか」と指摘。賛成派は「トイレをきれいに使うようになる」「身の回りのことを自らできるようになるのは重要」と主張する。モデル校となった中学校の男性校長は「トイレ清掃を通して、自ら社会を良くしていこうという心を養いたい。衛生面には細心の注意を払っていく」と話している。

同記事では,横浜市において,2009度より全市立学校の児童・生徒によるトイレ清掃を30年ぶりに再開する方針であることを紹介.「え,横浜市内の公立学校では,トイレ清掃を学生がやっていなかったの」と驚きの一記事.
2008年6月19日付のタウンユース紙による報道を拝見すると,神奈川県内では「横浜市をのぞく県内の市町村で児童によるトイレ清掃を行なっているのは全体の約42%で215校程度」「中学校では全体の約72%,195校程度」と,小学校では6割,中学校では3割は学生による清掃が行われていない模様*1.そのようななかで,同市が今回の学生によるトイレ清掃を再開することになった制度上の契機は,本年5月13日に開催された同市教育委員会における「協議事項」として提示された,「平成20年度教育委員会運営方針」の審議において,「児童生徒による清掃活動推進プロジェクト」として提案されたことにあるのだろうか*2.同記事に紹介されているトイレ掃除を通じた「公共の精神」の涵養されるか否かはその実証方法をも含めた検証が必要なテーマかとは思わないでもないものの,むしろ,同記事でも少し言及されている,現在の同業務を担う職員体制(技能労務職員)の在り方と密接に関連した事案かとも思われる.
総務省に設置されている「技能労務職員の給与に係る基本的考え方に関する研究会」に提出された資料を拝見すると,同市の用務員職への就任に際しては,「技能職員の職種をまたいだ人事異動」*3等を通じて,同職に就き,現在,その用務員職は824名在職されており,清掃職員の1603名に次いで多い状況にある.そして,同市が独自に設けた給料表である「3級制」によれば,「3級」が420名,「2級」が139名,「1級」が265名*4とある.同市の技能労務職の採用は「現在,採用は行っておりません」との方針であり,これは,指定都市全体では,用務員職の「民間委託(事務事業)の実施状況」が2004年度末では8%であったが,2008年4月1日では29%と,20ポイント増の状況にある*5ことからすれば,同職業務に関しては新たな主体への移転が進みつつあることでもある.その一つが利用者負担とも言える今回の学生によるトイレ掃除か.同取り組み,「公共の精神」云々は兎も角,異なる風景が見えてきそうで,興味深い.
我が国における水洗トイレの国産化は,「機械技術者や金属加工業者ではなく,プラマーでも公衆衛生学者でもなく,陶器屋」であり,「本来,公衆衛生の世界とは無関係であった陶器屋が,「清潔な近代社会」に必要なファシリティの国産化に先駆けた」*6との分析がある水洗トイレ.導入された水洗トイレの「清潔」な空間を誰が維持するかという,その主体の観点からは,興味深いテーマ.

*1:タウンニュース(2008年6月19日付)「市立小・中児童・生徒にトイレ清掃

*2:横浜市HP(教育委員会教育委員会定例会及び臨時会)「教育委員会定例会会議録(平成20年5月13日)

*3:総務省HP(技能労務職員の給与に係る基本的考え方に関する研究会:第6回(開催:平成20年9月16日))「議事録」16頁

*4:総務省HP(技能労務職員の給与に係る基本的考え方に関する研究会:第6回(開催:平成20年9月16日))「横浜市の技能労務職員の状況」1〜2頁

*5:総務省HP(地方行革の取組状況について:2008年10月31日)『資料2 集中改革プラン及び18年指針の取組状況』23頁

*6:前田裕子『水洗トイレの産業史』(名古屋大学出版会,2008年)75頁