国の補助金を受けられなかったのは町長らが部下の監督を怠ったためとして、鳥取県智頭町が寺谷誠一郎町長らに二千万円の損害賠償を求めていた訴訟で、町は二十七日、「原告の代表と被告が同じという(ねじれた)訴訟を終わらせ、町政を安定させる」として訴訟の取り下げを決めた。
 同町議会が二十三日の三月定例議会で、「裁判が長期化している」などとして訴訟の取り下げを求める決議書を賛成多数で可決したのを受け、町は各課の課長十三人による幹部会を二十七日に開き、対応を協議。議会の議決を尊重する、町政の安定を図る−などの理由で訴訟の取り下げを決めた。三十日以降に弁護士を通じて鳥取地裁に取り下げの書面を提出するという。
 町の決定について、寺谷町長は「町と議会の『町づくりに専念しろ』というメッセージと受け取った」と語り、町などの判断を尊重する姿勢を示したが、議会の採決で否決に回った岸本真一郎町議は「町は住民に取り下げ理由を説明せずに決定した。説明責任を果たすべきだ」と反発している。
 この問題は、寺谷町長の二期目に福祉施設を建設した際、工事が終わっていないのに担当者が完成したと国に虚偽の報告をしたため、補助金約九千八百万円が受けられなくなったのが発端。町は二〇〇六年、町長を退いていた寺谷氏らに損害賠償を求める訴訟を起こしたが、この後、寺谷氏が町長に当選し、原告の代表者と被告が同じ人物になっていた。

同記事では,智頭町が同町町長に対して損害賠償請求を求めていた訴訟を取り下げる方針であることを紹介.
「参加型予算」の取り組みとして,2008年10月18日付及び同年12月17日の両本備忘録でも取り上げた同町.両日の本備忘録記録時には確認ができなかった,「参加型予算」としての「智頭町百人委員会」の内容に関しては,同町HPに掲載されており,要参照*1.両本備忘録の経過観察として,2009年3月24日付の朝日新聞を拝読すると,同取り組みによる事業案が可決されたことが報道*2.同記事を拝読した折には,「参加型予算」の成果として本備忘録に記録しようとは思うものの,同町の訴訟に関する議員動議可決との報道もあり,その動向を経過観察していると同記事の方針となったとのこと.
同記事を拝読すると,議員「動議には,議長を除く議員11人中9人が賛成,2人が反対」とあり,同議員動議に関しては「法的拘束力はないが,町執行部で取り扱いを検討する」としては,2009年3月24日付の毎日新聞の報道によると,同訴訟に対する「取り下げの権限は町長がもっている」*3とあり,,その決定は町長(執行部)にあるとも紹介されている.そして,同記事にもある,町長(執行部門)としての方針を定めた幹部会については,2009年3月28日付の毎日新聞の報道では「幹部会には,町長と幹部13人が出席したが,当事者の寺谷町長は協議に参加しなかった」*4ともあり,被告であり原告代表である「町長」は,その決定過程手続からは,同会の協議からは距離を置くことで行われた模様.結果的には,同記事にもある議員動議が,町長(執行部門)としての決定における正統性を付与された形となったともいえそう.
「政策訴訟」*5という概念・言説が一部にあり,同概念・言説については,他の「政策法務」とされる概念及びその所作との「差別化を図る必要もない」とはされるものの,「債権管理などの場合において訴訟を積極的に活用していく場合」と「自治体が訴えられた場合を契機として,新たな政策決定や既存の政策の転換につなげる場合」*6の2つの類型があるとも整理されることもある.原告代表と被告が,実質上「同一人物」という状況を踏まえると,同記事の方針は,実態的には想定される方針ともいえるものの,これもまた,「「政策」訴訟」の一つの類型といえるのだろうか.興味深い.

*1:智頭町HP(まちのこと)「智頭町百人委員会

*2:朝日新聞(2009年3月24日付)「「百人委」事業を可決 智頭町議会が閉会

*3:毎日新聞(2009年3月24日付)「智頭町の福祉センター虚偽報告:原告も被告も町長の損賠訴訟、取り下げを可決/鳥取

*4:毎日新聞(2009年3月28日付)「智頭町の福祉センター虚偽報告:町が町長への賠償訴訟取り下げ/鳥取

*5:兼子仁・北村喜宣・出石稔共編『政策法務事典』(ぎょうせい,2008年)364頁

政策法務事典

政策法務事典

*6:神崎一郎「「政策法務」試論(二・完) 自治体と国ののパラドックス」『自治研究』第85巻第3号,2009年3月号,112頁