ことし誕生百年を迎える横浜市歌はもともと、現在よりも高いト長調の旋律だった−。横浜交響楽団(小磯智功理事長)は初演当時の市歌を文献などから調べて21日、県立音楽堂(横浜・紅葉ケ丘)で開かれる第615回定期演奏会で再現する。開港150周年を記念した演奏会。楽団は市歌が生まれた経緯などについてまとめた冊子を3千部作成、聴衆にも配布する。
 横浜市歌は1909年7月1日、開港記念式典で初めて歌われた。作詞は文豪森林太郎(鴎外)、作曲は南能衛(よしえ)。「わが日の本は島国よ」で始まるこの歌は、今でも多くの市民に親しまれている。ト長調で作曲されたが、普及に向けて歌いやすくしようと、ヘ長調変ホ長調により低く移調されたという。リズムも一部変えられており、演奏会では作曲された当時の「原曲」を披露、現在歌われている市歌と比較する。
 市歌の調査にかかわってきた小磯理事長は「百年も多くの市民に歌い継がれてきた市歌はあまり例をみない。郷土の歌として、もう一度味わい直してほしい」と話している。演奏会には鴎外や南の孫たちも訪れる予定という。定期演奏会では、このほか横浜にちなんだ作品を多く取り上げる。山田耕筰が作曲し、ほとんど演奏機会のなかった歌劇「黒船」の「序景」もその一つ。アメリカ人からの作曲依頼を受けた山田が、シカゴ公演に向けて着手。盆踊りといった日本の風俗を表現した「序景」から完成させた。しかし公演は中止となり、独立した曲として31年、レニングラードで初演された。39年に歌劇全幕が完成したが、「序景」は削除されて上演されることが多かったという。また、同楽団創設者の小船幸次郎が作曲した組詩曲「横浜1947年」(詩朗読は劇団葡萄座の西川絵菜さん)なども演奏する。指揮は甲賀一宏さん。赤い靴ジュニアコーラス、横浜少年少女合唱団、横響合唱団が共演。午後2時開演。チケットは千円。問い合わせは同交響楽団事務所電話045(824)3176。

同記事では,横浜市における市歌について紹介.
現在,「ヘ長調変ホ長調」により奏じられる市歌の原曲は「ト長長」へから,「歌いやす」さへの配慮から「低く移調」されたものであった,とのこと.同市の市歌については,同県HPを参照*1.同曲,「現在も市立の小学校では,校歌とともに歌唱指導されて」おり,「開港記念日(6月2日)や卒業式,市大会などの行事で,演奏・斉唱されてい」るとのこと.
2008年8月18日付の本備忘録では,県民歌にういて触れた自治体歌.やはり,自治体という「想像の共同体」において,自治体の歌の唱和の機会を通じて,その「物理的共鳴のなかに現に体現する機会」*2となるとすれば,その唱和しやすさに向けた「移調」への配慮の趣旨はよく分かる.その一方で,「想像の音」(239頁)でありつ続けた原曲を復古することで,本来の音階のなかに組み入れられたであろう,同地へ思いもまた見出すことができるのかもしれない.興味深い取り組み.

*1:横浜市HP(生涯学習ホームページ「はまなび」)「横浜市歌

*2:ベネディクト・アンダーソン『増補 想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行』(NTT出版,1997年)238〜239頁