さいたま市は、火葬墓地を住宅から百メートル以上離して造成するように新たに明記した「墓地の許可に関する条例」の改正案を、十二月議会に提出する方針を固めた。可決されれば、来年一月から施行の予定。事業型墓地の計画増加や、計画に反対する住民紛争を受けたもので、今後の墓地計画に影響を与えそうだ。 (水越直哉)
 既存の市条例では、土葬の場合は感染症防止のため「学校や病院、老人福祉施設、住宅まで百メートル以上離すこと」とするが、火葬では「病院や老人福祉施設などから百メートル以上」と定め、住宅や学校からの距離規制はなかった。一方同市に接する十二市町は、富士見市を除き、どんな墓地でも住宅や学校から五十メートル、もしくは百メートル以上離すよう定めている。
 さいたま市が二〇〇五年に条例を改正してから、市は新規墓地の許可を一件しか出していないが、周辺自治体が相次いで距離規制を条例化し、規制の緩い同市には「〇七年から墓地造成の事前相談件数が増え始めた」(市担当者)という。申請の前段階に当たる「事前相談」は、拡張も含めて今年既に二十五件を数え、市は「市でも条例が変わる前に、開発計画を進めようという考えがあるのではないか」と話す。一部の住民の反対を受け、市議会は、六月定例会で「近隣自治体は一定の距離規定を設けている。市も住宅から一定の距離規定を設けるべきだ」と決議案を可決。これを受けて、市も今月十八日からホームページで、住民意見(パブリックコメント)を募り始め、条例改正に動きだした。
 改正条例案では火葬での住宅からの距離規制に加え(1)ほかの自治体からの事業墓地の進出を抑制するため、経営主体が市内にあること(2)無縁墓の増加を受けて、「合葬墓」も墓地の施設基準であると定める−項目も盛り込む方向で検討している。
困難なトラブル解決
 さいたま市では、市内の複数の地区で、進行中の墓地計画について住民が反対運動を展開してきた。「墓地計画地の百メートル以内に約二十軒の住宅や小学校、別の墓地もある。誰も歓迎していない」と計画に反対の男性(49)。別の地区の主婦(50)は「墓地は必要なものだが、将来的に住職が代わったりした時に管理に不安がある」と語った。運動を受け、市は条例改正に着手したが、どちらの墓地も既に市に計画を提出済みで、新たな規制の対象外。主婦は「(距離規制ができても)墓地側に瑕疵(かし)がなければ、住民の意思に反して墓地ができる実態は変わらない。今後の計画地の根本的な解決にもならないのでは」と話した。
 墓地に関する調査研究をしている「社団法人全日本墓園協会」の横田睦主任研究員は「住宅との間に広い緑地ベルトを造るなどできればいいが、すべての墓地で面積は取れない。結局はケースごとに住民と経営者が互いに配慮を求めるという、答えのない答えしかない」と、問題の難しさを指摘する。

同記事では,さいたま市における,墓地造成に際する条例を改正し,住宅・学校との設置規制を新たに整備する方針について紹介.同記事でも紹介されている「さいたま市墓地、埋葬等に関する法律施行条例」の改正案は,平成21年9月18日(金)から同年10月19日(月)までの間でパブリックコメントが実施.改正案及びパブリックコメントの内容は,同市HPを参照*1
「宗教法人による事業型墓地計画が増加し,これに伴い周辺住民による墓地設置の反対運動が相次いで起こり,市長や市議会あてに,反対署名の提出や請願」,そして,「平成21年6月議会において,墓地設置問題に関する決議」*2がなされたことが同改正案に至る背景.改正内容は3点.まずは,「墓地の設置場所の適正化を図り、周辺住民の良好な生活環境を保つため」に「新たに焼骨を埋蔵する墓地を設置する場合は,住宅から100m以上の距離」とすること,次いで,「経営者の基準を明確化し,市内の宗教法人等による適正な運営を確保するため」に,「新たに設置する墓地及び納骨堂の経営者は,市内に主たる事務所を有する宗教法人等」とすること,最期に,「近年の少子化核家族化の影響による墓地の無縁化や承継者のない墓地の管理問題対策を講じ,墓地の安定的な経営に資するため」に,「墓地の施設基準として,無縁墳墓の改葬等のための合葬墓の設置を追加」すること.
第1点目の設置基準については,同記事では「同市に接する十二市町は,富士見市を除き,どんな墓地でも住宅や学校から五十メートル,もしくは百メートル以上離すよう定めている」ともあり,近隣都市の同種条例での規制からの「相互参照」*3の結果から,同改正案の基準へと至った模様.第2点目は,例えば,経営主体の「非営利性を確保しようとするための法人格の限定は,結果として墓地をビジネスチャンスとして投資の対象とする営利企業がバックとなって資金調達する」*4現状もあるとの観察結果もあり,これらを想定された改正なのだろうか.第3点目は,,現在のお墓が「「永代」といっても実際の墓は数十年の限定商品商品」であり,特に「個人墓や夫婦墓などは,まして一代限りの墓である」*5との現状認識が示されていることを踏まえつつ,いわゆる「継承者の入らない大部屋型の墓」(204頁)へ選択可能性を想定されての改正ともいえそう.「迷惑施設」としての規制に内包されえない課題に向けた改正案.

*1:さいたま市HP(市について広聴・アンケート・募集パブリックコメントパブリックコメント募集中の計画等)「さいたま市墓地等の経営の許可等に関する条例の一部を改正する条例(素案)への意見を募集します

*2:さいたま市HP(市について広聴・アンケート・募集パブリックコメントパブリックコメント募集中の計画等さいたま市墓地等の経営の許可等に関する条例の一部を改正する条例(素案)への意見を募集します)「さいたま市墓地等の経営の許可等に関する条例の一部を改正する条例(素案)」1頁

*3:伊藤修一郎『自治体発の政策革新』(木鐸社,2006年)30頁

自治体発の政策革新―景観条例から景観法へ

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*4:田口一博「墓地関係条例」北村喜宣編著『分権条例を創ろう!』(ぎょうせい,2004年)192頁

分権条例を創ろう!

分権条例を創ろう!

*5:斎藤美奈子『冠婚葬祭のひみつ』(岩波書店,2006年)201頁

冠婚葬祭のひみつ (岩波新書)

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