「国と地方による協議の場」の法制化に向け、政府と地方6団体の代表者による「実務検討グループ」の初会合が18日、首相官邸で開かれた。具体的な協議方法などについて検討を重ね、来年3月をめどに法案の国会提出を目指す。
 政府から松井孝治官房副長官らが、地方からは山田啓二京都府知事らが、それぞれ参加。地方側からは、国の個別政策ごとに分科会を設け、企画・立案段階から地方の代表者が参画する方式を採用するよう提案があったが、政府側は難色を示した。

同記事では,国と地方による協議の場の法制化に向けた実務検討グループによる会合について紹介.2009年11月17日付及び同年12月6日付の両本備忘録でも紹介した,国と地方の協議の場の法制化,同会合を通じ,具体化の検討が進めらる模様.同会合に関しては,内閣府HPを参照*1
同会合の「構成員」は,「京都府知事」,「池田市長」,「和木町長」と政務・事務の「内閣官房副長官」,「内閣総理大臣補佐官」,「内閣府大臣政務官」,「総務大臣政務官*2の8名.同日の同会合では,「地方」側から「国・地方会議(仮称)法案要綱(地方案)の基本的な考え方」*3と「国・地方会議(仮称)法案要綱(地方案)」*4が提出.
同資料を拝読すると,まず,会議の名称は,「国・地方会議」前掲*5として提案.同会設置の目的は,「「国・地方無駄とり会議」的なもの」*6との認識も示されている.構成は,「議長」を「内閣総理大臣」として,議員は,「内閣官房長官総務大臣財務大臣その他地方行財政に特に関連が深い者として内閣総理大臣が指定する国務大臣」と,「地方公共団体の長及び議会の長の全国的連合組織(地方自治法第二百六十三条の三第一項に規定する全国的連合組織で同項の規定による届出をしたものをいう.)の代表者」*7とある.同提案においても,「地方公共団体の長及び議会の長の全国的連合組織」と,現行の地方六団体の「代表者」と明記.ただ,ここでいう「代表者」は,各会における「会長」職者を指すのか,団体が選出した「代表者」を指すのは,判断の幅もありそう(なお,同条同項,2009年12月6日付の本備忘録でも妄想してみたように,一見する限りでは「普遍主義」的な規定のようではあるものの,その実際は「特例主義」*8的に解されている規定.果たして,他の実質的な「連合組織」が,同条同項の「届出義務」*9に基づき,「届け出」た場合,総務大臣は,同届出に対して,却下の判を示されるのだろうか.考えてみたい).
同会議の協議対象の事項は,大別すれば5事項,細項目を含めると,以下の計14項目が提案*10.内政全般に関する概括的な規定とも整理できそう.

地方自治の根幹に関する次の事項
 イ 地方公共団体の組織、運営その他の地方制度の基本的事項の改変に関するもの
 ロ 地方公務員法に定める地方公共団体の人事機関及び地方公務員の任用、勤務条件等に関する基本的な規定の改変に関するもの
2 国と地方の役割分担の抜本的な見直しと地方公共団体への権限移譲・新たな義務付け等に関する次の事項
 イ 法律・政令等により地方公共団体に重要な影響を与える国の関与に関するもの
 ロ 地方公共団体に対して新たに権限を付与するもの又は新たに責務,事務若しくは負担を義務づけるもののうち,地方公共団体に重要な影響を与えるもの
 ハ 国が現に有する権限や執行している事務及び事業の地方公共団体への移譲に当たって地方公共団体に重要な影響を与えるもの
 ニ 国の地方支分部局の廃止及び縮小で地方公共団体の行政に重要な影響を与えるもの
 ホ イからニの具体化に伴い必要となる,地方公共団体への人員移管の仕組みや財源措置等に関するもの
地方税財政のあり方に関する次の事項
 イ 地方税法に定める地方団体の課税権,税目,課税客体,課税標準,税率その他地方税及びこれに関連する基本的な規定の改変に関するもの
 ロ 地方交付税,国庫支出金など,地方公共団体の財源を保障・調整する仕組みの見直しに関するもの
 ハ 地方財政法第十三条の規定に基づき国が講じなければならない地方公共団体への必要な財源措置に関するもの
 ニ 地方財政法第十七条の二の規定に基づき地方公共団体が負担する負担金のあり方の見直しに関するもの
 ホ 地方財政計画(地方交付税法第七条に規定する「翌年度の地方団体の歳入歳出総額の見込額に関する書類」をいう.)の基本的な内容に関するもの
 4 経済財政政策,社会保障・教育に関する制度及び社会資本の整備・地域の振興に関する施策等のうち,地方行財政に重要な影響を与えるもの
 5 前各号に掲げるもののほか,地方公共団体の組織及び運営の根幹に関するものとして、国と地方の協議を経て政令で規定するもの

加えて,「協議の結果の尊重等」を確保するために,「地方公共団体が法律又は政令に基づいて新たな事務を行う義務を負うにもかかわらず、そのために要する財源について必要な措置が講じられていないと認めるときその他法令に違反すると認めるときは」には,「地方」側からは,「当該事項につき,国地方係争処理委員会等(※ 国地方係争処理委員会を拡充,若しくは新たに第三者による仲裁制度を設ける)に対し審査の申出をすることができる」*10との事項も掲載.
同資料を踏まえた審議内容は,当該会合の議事内容が公開されるかは判然とはしないため,各紙を確認してみると,2009年12月18日付の共同通信の配信記事では,「対等の立場で本音をぶつけ合いたい」「定期的に開催するべき」「住民生活に影響がある施策が協議事項から外れないよう」*11と「地方」側から見解が示されたことを紹介.一方「国」側からは,同会合の制度内容が「緻密過ぎるとお互いの手足を縛る可能性」*12,同日付の西日本新聞による報道では,上記資料において示された「仲裁制度」に対しては,「対立が起きることを前提」「率直に議論し合意する場ではないのか」との見解,同資料にある「協議事項」に関しても「包括的にしないと、かえって議論を狭める」*13との見解が示されたことが紹介されている.
下名個人的には,これら協議事項とその結果の尊重確保に加えて,同会合で扱われる議題の付議方式.同資料では,「議長が,協議に付すべき事項を示して」と議長がその審議事項を定める方式との規定と,加えて,地方側の構成員が,「議長に対して,協議に付すべき事項を示して,招集を請求することができるもの」*14とある.その「付すべき事項」に対して,どのような「整理」*15を図る手順を想定されているかは,同要綱では把握できず.また,「協議に付された事項は,原則として,議員の全員一致をもって協議が整ったものとする」「ただし,議員全員が了解した事項は,多数決等政令で定める方法により議事を決することができるもの」*16との議決手順も示されている.
今回の会合は,1時間開催.同会合自身の設置規定を把握できないため,そもそも「実務」なる「ドクトリン」*17がどのような観念であり,そして,同会合において,どのような事項を,どの程度まで審議し,最終的なその審議内容の「議事を決する」ことが想定されているのかは判然とはしないものの,同会合自体が,地方と国との見解表出の「回路」*18に止まらず「場」となるか,要経過観察.

*1:内閣府HP(地域主権国と地方の協議の場実務検討グループ)「第1回会合(開催日:平成21年12月18日)

*2:内閣府HP(地域主権国と地方の協議の場実務検討グループ):第1回会合(開催日:平成21年12月18日))「国と地方の協議の場実務検討グループ 構成員名簿

*3:内閣府HP(地域主権国と地方の協議の場実務検討グループ):第1回会合(開催日:平成21年12月18日))「地方側提案資料1 国・地方会議(仮称)法案要綱(地方案)の基本的な考え方

*4:内閣府HP(地域主権国と地方の協議の場実務検討グループ):第1回会合(開催日:平成21年12月18日))「地方側提案資料2 国・地方会議(仮称)法案要綱(地方案)

*5:注4・内閣府(地方側提案資料2)1〜2頁

*6:前掲注3・内閣府(地方側提案資料1)1頁

*7:前掲注4・内閣府(地方側提案資料2)1〜2頁

*8:金井利之『自治制度』(東京大学出版会,2007年)202頁

自治制度 (行政学叢書)

自治制度 (行政学叢書)

*9:村上順著・財団法人地方自治総合研究所監修『逐条研究地方自治法Ⅴ』(敬文堂,2000年)673頁

逐条研究地方自治法 (5)

逐条研究地方自治法 (5)

*10:前掲注4・内閣府(地方側提案資料2)1〜2頁

*11:共同通信(2009年12月18日付)「法案の3月提出へ作業加速 「国と地方の協議の場」

*12:前掲注12・共同通信(2009年12月18日付)

*13:西日本新聞(2009年12月19日付)「仲裁制度めぐり激論 「協議の場」の法制化へ初会合 地方提案に国が反発

*14:前掲注4・内閣府(地方側提案資料2)2〜3頁

*15:松井望「首長と事務機構−首長の意思決定機構を支える仕組みとしての庁議制度−」『都市とガバナンス』Vol.12,2009年9月,25頁

都市とガバナンス 第12号

都市とガバナンス 第12号

*16:前掲注4・内閣府(地方側提案資料2)3頁

*17:牧原出『行政改革と調整のシステム』(東京大学出版会,2009年)20頁

行政改革と調整のシステム (行政学叢書)

行政改革と調整のシステム (行政学叢書)

*18:金井利之「「国と地方の協議の場」の成立と蹉跌」森田朗・田口一博・金井利之編著『分権改革の動態』(東京大学出版会,2008年)94頁

分権改革の動態 (政治空間の変容と政策革新)

分権改革の動態 (政治空間の変容と政策革新)